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『その唇にKISSする時』裏話その3
『その唇にKISSする時』
https://estar.jp/novels/25815908
裏話、という程のことでもないが、補足しておきたいことがある。
それは、地の文における人物呼称について。
ヒロインの津崎歌澄に関しては、地の文では一貫して「歌澄」と名前で統一している。これは、ヒーローの千川京也からの視点で、彼女は過去も現在も「歌澄」もしくは「歌澄さん」だからだ。
京也は歌澄がかつて「関本」であったことを知っているし、その父母も知っている。だから彼にとって彼女を名前で呼ぶことは自然だ。「関本さん」や「津崎さん」では、誰なのか、分からなくなるからだ。
作中、彼が歌澄を「津崎さん」と呼ぶ場面があるが、それはまだ愛人関係になる前、単に上司と部下という関係でしかなかった時のこと。
ちなみに愛人関係になっても、当然、仕事の時は「津崎さん」と呼んでいる。
だからエレナに歌澄を紹介した時、「秘書の津崎だ」と紹介している。
一方の京也は、第1話の「ミストレス―冷たい牢獄―」では、「千川」に統一している。第2話の「アンビバレンス―いつか、唇へのキスを―」では名前の「京也」、第3話の「アウェアネス―いつか、貴方の名を―」では途中までは「千川」、途中から「京也」になっている。
第1話では、歌澄にとっての京也は上司の「千川京也」でしかない。上司と部下という関係のまま、ほとんど命令に近い提案によって愛人関係を結んだ相手だから、名で呼ぶ程の親しみは彼女には無いのだ。多少、感謝や情を感じ始めたところではあるが、そこまでではない、という状態。
会話文では、京也自身の命令によって「京也さん」と呼ばされているだけであり、素の歌澄が京也を呼ぶ時は、「社長」になる。
第2話は話全体が京也視点であるから、地の文も「京也」とした。
問題は第3話だ。この話は最初、地の文の「千川」だが、途中から「京也」になる。それは歌澄の心情変化とリンクしている。歌澄にとっての京也が社長の「千川京也」でしかない間は「千川」、かつて父の会社に出入りしていた「三上京也」であることに気付いた後は、「京也」なのだ。
第4話以降は、「千川」と「京也」が、一見すると混在している。
しかし実は、その場に歌澄がいる時といない時で、変わるだけだ。
森川やエレナ、湯浅などと仕事の話をしている時は「千川」、歌澄がその場にいるときは、三人称とはいえ、地の文が歌澄の視点寄りになることもあって「京也」になる。
だから例えば、第6話「オフェンス・アンド・ディフェンス」では、同じ場面でありながら、京也視点のページは、その場にいるのがエレナだから「千川」だし、次ページの歌澄視点では、歌澄が京也とエレナを目撃するから「京也」だ。
地の文に関わらず、人物の呼称を統一する方がわかりやすいのかもしれないが、人物同士の距離感や、心情の変化の表現の一つとして、呼称を変化させてみた。
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