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『その唇にKISSする時』裏話その2
『その唇にKISSする時』
https://estar.jp/novels/25815908
この作品には、何故か脈絡のない観光案内が入る。
それはまさに、あれだ、2時間サスペンスだ。
歌澄の逃亡先を那須にしたのは偶然だ。
女性が一人、住み込みで働ける場所ということで、逃亡先は温泉地が自然だと考えた。しかしこれは、私自身のアイデアではない。
小学生の頃読んでいた『りぼん』に掲載された、小花美穂先生の『この手をはなさない』に、そういうシーンがあった。
ヒロインが旅館に逃亡するのだ。(ただ、ヒーローから逃げるのではなく、確か、借金取りから逃れるためだったかで、ヒーローに迷惑を掛けないためだったと思う。)
大人になった今考えると、小学生も読む雑誌に、かなりハードな内容の漫画が掲載されていたことになるのだが……だからこそかもしれない、未だに強く印象に残っている。
ともかく、温泉地に逃れることになった歌澄だが、那須にしたのは、ほんの偶然だった。
まず、東京から近過ぎず遠過ぎず、少し意外性のある場所にしようと思った。
逃げるのだから、遠ければ遠いほどいいのだが、例えば北海道まで逃げてしまうと、京也の捜索が困難を極める。登別、函館、ニセコ、定山渓など著名な温泉は多いし、例えばトマムなどのリゾート地でも住み込みの仕事はあるだろう。
かといって、箱根は近過ぎるし、草津や熱海は温泉地として有名すぎて意外性に欠ける気がした。
そしてもう一つ、これも何かの作品で読んだのだが、「人は北へ逃げる」。だから、東京より北の地にしたかった。
それで、京也が捜索し(といっても調査会社に頼むのだが)、迎えに行ける現実的な範囲で、北にある温泉、ということで那須になった。
多くの人は、那須といえば「御用邸」をイメージするかもしれない。
しかし私にとっての那須は、那須野の「殺生石」だ。だからどうしても、殺生石の解説を入れたくなってしまった。
そしてもう一つの観光案内、「那須野の巻狩」。歴史オタクではあるもののその知識に偏りしかない私は、寡聞にしてこれは、今回知った。
京也が那須塩原の駅に降りた時の描写をしようと、Googleストリートビューを見ると、駅前に「巻狩鍋」が鎮座していた。これに触れないわけにはいかないと、那須塩原市のサイト等を参考に、「巻狩鍋」についても書いた。
その際、源頼朝が行った「那須野巻狩」について触れる必要があった。さすがに歴史的な出来事については、極力一次資料を当たりたい。しかし、図書館に行く時間的な余裕は無い。
困った……と思った時、蔵書に『吾妻鏡』があることを思い出した。
これは、以前通っていた小説講座で一緒だった方が、もういらないからと、当時『暁闇に春風ぞ吹く』を執筆中だった私に、くださったものだ。
早速、サイトに書かれた年月のページを見てみると、ちゃんと「那須野巻狩」について書かれている。
しかもそのすぐ後には、多分、一番有名な巻狩であろう「富士の巻狩」についても書かれている。ことはついでと、「富士の巻狩」と「曽我兄弟の仇討ち」についても書いた。
多分、これらの情報は本編には全く関係がない。
しかし、「殺生石」も「曽我兄弟の仇討ち」も、自分にとっては避けては通れない話題なのだ。どちらも、能の題材になっているからだ。
作中での必然性を出すなら、歌澄や京也が、多少なりとも能楽の知識が無ければいけないだろうが、作中にはそんな描写は無い。だから多分、作品としては、蛇足に過ぎない。
しかし、ほんの偶然からヒロインの逃亡先を那須に設定した上、一次資料まで手元にあるとなれば、やはりこれは触れるべきだと、書くことにしたのだ。
ちなみにWEBは大変有り難く、那須塩原駅に着いた京也が昼食を取るレストランも、Googleストリートビューで見つけ、Googleマップや食べログの情報を参考にしている。
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