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 ホノルルにミストシャワーのような柔らかな雨が降った午後、櫂はレオと一緒に墓地を訪れていた。  アカオ・ホテルの支配人であるジェイク・ラキオが眠るこの墓地は小高い丘の上にあり、眼下にはワイキキの海にうっすらとかかる虹が見える。  櫂は、持参したドライフラワーのリースを支配人の墓前にたむけた。  あの事件があった日に床に散らばっていたかすみ草、ミモザ、白いチューリップで作ったリースである。 「ジェイク、今までお世話になりました。安らかにお眠りください」  二人で祈りを捧げた後で、墓地の先に広がる丘を散歩した。 「今回の事件は君が助言をくれなければきっと解決しなかった。改めて礼を言うよ、本当にありがとう」 「いえ、そんな。僕がたまたま花のことに詳しかっただけですから」 「それにしても、ホノルル警察の歴史の中でも指折りの奇妙な事件だったな」 「はい、僕の中でも決して忘れられない出来事でした」  レオは優しく櫂の手を握りしめる。 「死者が出ている以上、あまり不謹慎なことは言いたくないが……この事件で君と出会えたことは、俺の人生の一大事だったよ」 「ふふ、僕もです。まさか自分が人を好きになれるなんて思ってもいませんでしたから」 「それは俺もだな。どこかの誰かと適当に付き合ったりしながら生涯独身で過ごすだろうと思っていたからな」 「ふふ、僕もです」 「それじゃあ、お互い運命の相手だったって訳だな」  笑いながらウインクをするレオは、本当にチャーミングでセクシーだ。  優しくて頼もしくてハワイの自然をこよなく愛するレオに、櫂は会うたびに恋をしている。 「レオ、僕はあなたに会う前はいつも自分の居場所がないって思っていました。生まれ育った日本にはもう両親や親戚もいません。ハワイには叔母と叔父がいるけれど、ハワイの明るい日差しとか陽気な人々とか、そう言う雰囲気が僕には不釣り合いだなって思っていたんです」  櫂の頬をレオがゆっくりと撫でてくれる。 「でも、あなたに出会ってハワイが大好きになりました。この土地が僕を受け入れてくれた気がするんです。でもそれ以上に」  櫂は頬に当てがわれたレオの手を握り締めた。  大きくて節だった、暖かい手。この手に幾度も救われた。 「あなたのいる場所が、僕の居場所だなって思うんです。もしそこが砂漠のど真ん中でも北極でも、あなたのそばに僕もいたい」 「カイ」  レオに優しく抱きしめられて、櫂も彼の背中をギュッと抱いた。 「俺のそばにいてほしい、死が二人を分かつまで」  レオの体温を身体中に感じながら、櫂は満面の笑みで何度もレオの申し出にうなずいたのだった。  終わり
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