プロローグ 櫂side②

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プロローグ 櫂side②

 確かに櫂は童顔で背も168センチと低く、線も細いため10代に間違われることもしばしばだ。  それにしても顔は地味だし、引っ込み思案な性格が災いして、店番の時も愛想よく客に対応できているとも思えない。  キュートと自分は程遠い存在だ。  おそらくフラワーショップに若い男性がいる状況がちょっと珍しいので話題に上がっただけだろうと、勝手に結論づけて納得させていた。  櫂と同じ年頃の男性であれば、女の子に騒がれて嫌な気持ちはしないだろう。でも、正直に言ってしまうと櫂にとっては苦痛でしかなかった。  ハワイの人たちは男女問わずフレンドリーだ。日本から来た櫂にとても良くしてくれるし、みな穏やかでゆったりとしている。  ただし、他人との距離がとても近いのだ。櫂はこれが本当に苦手だ。  日本に帰りたい。何度そう思ったことか。  だけれども両親を亡くして天涯孤独になった15歳の櫂には、唯一の肉親である叔母のいるハワイに来るしか選択肢がなかった。  子供のいない叔母と叔父が、櫂を我が子の様に扱ってくれているから、櫂はまだハワイにいる。  もしそうでなければ、とっくに日本で一人暮らしていただろう。 「はぁ。もう店番は辞めたいって叔母さんに言おうかな」  そう思いながら、手を振ってくれた女の子達に失礼にならない様に、車の中から小さく会釈をした。  彼女達にアロハポーズを返すのは、櫂にはまだ難易度が高い。
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