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壁にかけた時計を見ると、もう夜の10時を回っている。
叔母夫婦は一階のリビングでテレビを見ているのか、楽しそうに話をする声が漏れ聞こえている。
このまま寝てしまおうかとも思ったが、妙に心がざわついている。
「ドライブでもしてこようかな」
櫂は念のために薄い上着を手に取ると、一階の2人に声をかけてからガレージに止めてあるミニバンに乗り込んだ。
年に何回か、眠れない日がある。
それは大抵、死んだ両親を想った時だ。寂しくて悲しくて、会いたいなと考えると眠れなくなった。
そんなときはいつもカイマナビーチへ行って波音に耳を傾ける。遠い日本に想いを馳せるために。
「ビーチに行こう」
櫂はカイマナビーチに向かって車を走らせた。
カイマナビーチは櫂の家から車で20分ほどの場所にある。
観光客で賑わうワイキキとは違って、カイマナビーチには地元のサーファーや散歩を楽しむ近所の人が多く比較的静かな雰囲気なのが櫂は気に入っていた。
夜のカイマナビーチはとても静かだ。
近くの駐車場に車を止めた櫂は、浜辺に座りながら寄せては帰る波をただ見つめていた。
夜空には綺麗な半円の月が静かにあたりを照らしている。
櫂は支配人のことを考えていた。
支配人はあの青年に恋をしていたのだろうか。
(それってどんな気持ちなのかなぁ)
誰かを好きだと思う気持ちは、どんなだろうか。
その人を思うと、心臓が痛くなるのだろうか。
相手の一挙一動に飛び上がって喜んだり、落ち込んだり、不安になったりするんだろうか。
支配人もあの青年にそんな気持ちを抱いていたのかもしれない。もし、そうだとしたら
「ちょっとだけ、羨ましいな」
櫂がポツンとつぶやくと、後ろから声をかけられた。
「カイ?」
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