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「さすがはフローリストだな。海のナウパカの方が花びらがふっくらしているんだ」 「わあ……、素敵な花ですね!」  カイは自分の掌に置かれたナウパカを摘んで嬉しそうに眺めている。レオはもう、それだけで幸せな気持ちがした。今この瞬間をカイと共有していることが人生で一番大切なことで、それ以外はもはやどうでも良いとさえ思える。 「そう言えば、マノアフォールズでナウパカはハワイの人にとって大切な花だって言っていましたね」 「ああ、そうだったな。この花には伝説があるんだ」 「伝説ですか?」 「このナウパカというのは、ある王族の娘の名前なんだ。娘は青年と恋に落ちた」 「恋に……」  レオの視線が、カイのそれとぶつかった。レオは、今ならナウパカとその青年の気持ちがよくわかる。身分違いだろうがなんだろうが、惹かれてしまったこの想いはどうなっても消すことは出来ないのだ。  今、目の前にいるカイが、男性だろうがなんだろうが、レオにはどうでもいいことだった。ただ、カイという存在がいればそれでいい。  レオはカイの手首を優しく掴むと、持っているナウパカに再度キスをした。どうか、自分の恋を見届けて欲しい、成就させてほしいという気持ちをこめて。  そして、カイの細く柔らかな指一本一本に願いを込めてキスを落としていく。  カイに触れたいという衝動に勝つことができなかったレオの、最後の理性がカイの唇を強引に奪うことだけは許さなかった。そこは想いが通じた後で、存分に味わいたい。今はこの愛おしい指だけで我慢しよう。  カイの指はレオの唇が触れるたびに、ビクンビクンと小さく震えた。レオはその愛らしい指に噛み付いてむしゃぶりつくしたい衝動をなんとか抑えながら、優しく触れていく。 「あ……、レオ」 「カイ……、カイ、俺は」  再び視線がぶつかる。月に照らされたカイの顔は真っ赤だった。  思わずカイを自身の胸元に引き寄せようと、レオが握った手に力を込めたその時、後ろからなんとも場違いな声が響いた。
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