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出会い『花』
連絡先を交換してからどれくらい経つんだろう……
私に、連絡先を聞いてきたくせに連絡がくるわけでもなく、いつも川沿いの道ですれ違うと挨拶をする。ただ、 それだけ。
以前と違うのは、その挨拶は知人になってからの挨拶だということ。
知人と言ってもただの顔見知り。
ケガをした時は普通に話せていたのに何故かぎこちない。
彼は「どうも」と会釈をして足早に通り過ぎる。
別に、彼の事を好きなわけではないし、
そんな態度をされたら、ちょっとだけ気になるんだけど。
ただ、それだけなのに……
何故か、私がふられた気分になるじゃないの!
ちょっと不愉快にも感じるこの感情。
朝会うといつも挨拶だけの日々が続いて
私は、もう、どうでもいいや! と思いかけた時に連絡がくる。
「......もしもし」
「もしもし、この前はどうもすいませんでした。連絡が遅くなってすいません……」
「いえ。大丈夫です」
「キズは、どうですか?」
「大丈夫です。傷跡も残らず治りました」
「よかったです。あの、突然ですいません。今週でお時間あったら一緒に食事でもしませんか?」
本当に突然過ぎて、びっくりして
思わず「はい」と答えてしまった。
もっと、焦らしてあげればよかったかな。
2人で都合のいい日を話し合いながら、
3日後の土曜日に決まった。
土曜日は2人とも休みという事でランチをする事になり、
電話で、話しているとお互いの家が近い事がわかって、川沿いに並ぶイタリアン料理のお店に行く事になった。
イタリアンレストランは『ボヌール』といってこの辺りでは人気があり、私もたまに1人でランチに行ったりする。
休日の昼間から美味しい料理とワインを飲みながら、店の外を眺めて、ゆっくりと食事をする。こんな贅沢なことはない。
その他にもこのお店でのお気に入りは、
色々な紅茶、コーヒーも楽しめて
なんと言っても、イケメンの店員さんがいる。
勿論、顔だけではなく、気くばりも上手いし、とっても目の保養になるし、何よりも私のタイプで、引っ越したばかりの時は、わりと通った。
常連客になって仲良くなろうかな。と考えた事もあったけれど、家が近所だし、悪い噂がたっても困るし、
それに……私は、恋愛には幸せを感じたことがない!
と何かしらの理由をつけてやめた!
ボヌールの料理は、本当に美味しいから食べられなくなるのも嫌だし。
久しぶりにあのパスタが食べられる!
私のお気に入りのパスタ『イカと水菜の梅パスタ』具材と梅の絡み具合がバランスよく、何回食べても飽きない。
お気に入りのパスタにサイドメニューのお肉とデザートと紅茶、時々ワインを、食事しながらゆっくりする。
私が、息詰まった時にすることだ。
だから、あの人とランチをする事になった時
思わず、すすめてしまった。
ちょっと強引だったかもしれないけど。
「僕がケガをさせてしまったので、どこでも好きなお店を選んで下さい。ボヌールにしますか?」
「はい。ボヌールでお願いします」
「わかりました。予約しときますね」
「ありがとうございます。楽しみにしてます」
「はい。では、土曜日に。おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい」
とお店はスムーズに決まった。
お店が『ボヌール』だと決まってからは、
楽しみで楽しみで仕方ない。
仕事中にヨダレでも出ていないか心配になるほど、考えてしまう。
「結城さん、結城さん!」はっと我にかえる。
「す、すみません。何でしょうか?」
「結城さん、具合でも悪いの?」と上司に聞かれる。
「いえ、大丈夫です」
「ぼーとしないで仕事してね」
「申し訳ありませんでした。気をつけます」
いつもの作業の続きにもどる。
今は、土曜日が楽しみで機嫌がいいから、いつもだったらかなり不機嫌になるものも今日はならない。
ぼーとしてしまったことに反省をしながら、
仕事に集中する。土曜日が待ち遠しくて、ウキウキして、仕事が楽しく思える。
あと2日、あと1日と心待ちにして。
今日はとても天気がいい。
太陽の日差しを浴びて充電した気分に、心踊る。
『ボヌール』での待ち合わせは、正午にお店の前で待ち合わせる事になっていた。
待ち合わせには、のんびり気持ちいい天気にふれていたら、ギリギリの時間になっていた。
遠くで『ボヌール』の前に立っている彼がみえる。すぐに彼だとわかった。
いつもスーツ姿の彼は、今日は私服でいつもと印象が違った。
普段すれ違っていた時は気がつかなかったが、
「あんなに背が高かったっけ?」
彼の印象が違いすぎて、びっくりしてしまう。
今日の彼は、いつも髪型をしっかりセットされていて真面目な印象なのに今日は動きがある髪型で好青年のような印象にみえる。
服装もラフな服装でシンプルではあるがどこかオシャレにみえる。
スラッとした背丈で待っている彼を見ていると、何故か、急に緊張してきてしまった。
どうしてなんだろう…… ?
一度足をとめる。
心臓の脈打つ速さが速くなってきているようにも感じる。
顔があつくなっている気もする……
とりあえず、落ち着かせよう。
深く深呼吸をする。
平然を装いながら、ゆっくり、ゆっくり、
心を落ち着かせながら、一歩一歩近づく……
彼は、私に気がついてこっちに向かって手をあげている。
私も同じく手を振って答える。
もう目の前にいるけれど、お待たせしているのは確かだけれど、走ったり、急いだりしたくない、(心の中でごめんなさい。)と申し訳ない気持ちはあるけれど、今急いで行ったら……
自分の心臓の鼓動が聞こえてしまうのではないかと不安になったから。
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