Lunch

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Lunch

昼に『ボヌール』の前で待ち合わせをする。 気持ちが舞い上がっているせいか、昨日は眠れなかった。眠れたと思ったら目が覚めてと、何度も繰り返していた。 少しでも寝ないと! と食事中に頭が働かなくなるのも困ると格闘していた。だけど、胸がドキドキして眠れないんだ。 明日は、なんてたって、彼女と連絡先を交換してやっと食事に行けるのだから。 少しずつ夜が明けていき、外が明るくなってくる。僕は、寝るのを諦めて早めに準備をする事にした。 シャワーを浴び、髪の毛を乾かし、セットをする。 今日はプライベートなのだから、仕事モードのセットとは違う。 仕事の時は、比較的真面目な印象をもたれるようにしっかり固めてセットをするけれど、 プライベートは毛先に動きを出す感じにセットする。 僕の髪質はくせっ毛だからパーマをかけていなくても動きを出す事ができる。 昔は周りの友達に「おっ! パーマかけたの?」 と言われてたっけ。 最近は、仕事以外で出かけるなんて機会がなかったから、いつぶりのセットだろう。 セットにも気合いがはいる。 服装は…… どれにしようかな。 「ピシッとし過ぎてもな、よし、これにしよう」 と自然と独り言を言ってしまう。 今日は少しゆったりしたラフな服装にした。 第一印象は大事だし、ラフだけどラフ過ぎない位が、無難で良さそうだと思った。 『ボヌール』はイタリア料理店で人気店ではあるけれど、凄くかしこまったお店でもない。 かと言ってカジュアル過ぎはよくない。 ラフではあるけど小綺麗にみえるような服装。「うん! バッチリだ!」鏡の前の僕に言い聞かせながら気合いをいれる。 『ボヌール』へは20分程早く着いた。 毎朝彼女がやっているように僕も空を見上げて深呼吸をする。ああ…… なんて幸せを感じるんだろう。 人を好きになるだけで、こんなにも、世界が明るくみえるものなのか…… 空を見上げながら自然と顔が綻ぶ。 毎朝の君もこう幸せを感じているのだろうか。 いつもは全然みないこの川沿いの道を四方を見渡す。改めて見ると見渡しがよくて眺めがとてもいい。きっと桜が咲く頃は川沿いいっぱいに咲き、風が吹くと花吹雪も舞って綺麗なんだろうな。今までゆっくり眺める機会さえなかった。僕は、改めて心が窮屈になっていたんだと気づかされる。 僕の色々な気持ちを振り返っているとあっという間に20分過ぎていった。 遠くに君が歩いているのがみえる。 いつものように輝く笑顔をみせながら、君は僕に近づいてくる。一歩一歩距離が縮まって、 僕はどんどん君の虜になってしまうんだ。 僕は君が来るのをずっと見つめている。君が、僕に気がついたようだから僕は手を振る。君も僕に気がついて向こうから手を振る。 また、僕も手を振り返す。 ああ。僕は、君とこうしてずっと一緒に居られたらいいのに…… と心から想ってしまった。 「今日はどうもありがとうございます」僕は丁寧に挨拶をする。 「いえ、こちらこそ今日は楽しみにしてました」 二人でありがとうございますと、挨拶を交わす。 店の中に入ると店員が「何名様ですか? ご予約はされていますか?」と話しかけてくる。 こいつ、涼しい知らないふりしやがって。と僕は心の中で思う。 「ご予約の神谷様ですね。こちらへどうぞ」 と前をスラッと背の高い男性店員が席に案内してくれている。 前を歩いている店員は、僕の友達。高校時代からの同級生の藤本 (ふじもと れん)だ。 クールな表情をしているがきっと心の中は色々考えてるんだろうな。後で冷やかされそうだ。 蓮との出会いは社会人になってからふと飲みたくなって一人で近くの居酒屋へ足を運んだ。 お店は、凄く小さくカウンター4席、テーブル2席程の広さで、僕はカウンター席に座って「ビール下さい、それと枝豆も」と注文をする。 隣に目を向けると黒髪の男がこちらを見ていたが、めんどくさそうだから少しの間目があったが逸らして何食わぬ顔をして僕の時間を楽しんだ。 ただ、隣の男はどこか見覚えのある顔をしていたが思い出せそうで思い出せない。 考えていると隣の男が「おいっ。お前、神谷 (かみや しん)だろう」と急に話しかけてきて僕はびっくりした。 「えっ、 そうですけど、 どうして僕の名前を知っているんですか?」 「俺だよ!俺! 藤本 蓮!」 黒髪の男が嬉しそうに笑いながら話しかけてくるから、僕はケンカを売られている訳ではなかったので、内心ほっとしていた。 「あ、ああっ 藤本か? 久しぶりだね。 びっくりしたよ」 「おお! まさかこんな所で会うなんてな。 なんか嬉しいわっ!」 「だね。 まあ、僕達全く話した事はなかったけどね」 「だな。 でも、同じ高校の同級生って事でなんか嬉しくねぇ?」 そう言ってテンション高めの蓮が話す。 高校時代は一言も話した事がなかったのに、こうして、社会に揉まれていくと昔からの友達のように、高校を卒業してからはどうしてたとか色々な話をして、気がつくとお互いを親友と思うように仲良くなっていた。 お互いを新、蓮と呼び合うようになっていた。 蓮は『ボヌール』というレストランに働いているらしい。 『ボヌール』に通い始めたのも暇な時にふと、蓮が働いているレストランが僕の家の近くだったから行ってみたのがきっかけだった。 自宅から10分位歩いた所にそのお店はあった。 お店は一軒家を改装しており、入口までは綺麗な花が植えられていて、外国に来たような雰囲気だった。入口の扉は、赤い色に塗られていてひときわ目をひく。 店の外から中を覗いてみると、蓮が働いているのが見えた。 お店の制服を着た蓮は、背もあるし、女性にモテそうだ。何よりも店の雰囲気ととても合っていた。お店の中の空間に溶け込んでいる。 最初の印象は、そんな感じで蓮が羨ましくもなった。お店に入ると最初は緊張したものの、料理もとても美味しくて、すぐに気に入った。 それからは、度々『ボヌール』に足を運んだ。 毎回、違う料理を頼んで全ての料理を制覇する事が僕の日々の楽しみにもなる。 他にもここは、四季がかわる度に外の風景も楽しめる。 毎日、仕事で帰って寝る生活。 好きは女性がいる訳でもないし、人と群れるのもあまり好きではない。一緒にいる事が、当たり前になってしまう事も僕は、あまり好きではない。 まぁ、それが世間からは協調性がない…… と言うのだろう。 コミニュケーションが取れない訳ではない。 だが、笑いたくないのに笑ったり、相手の会話に合わせたりするのも疲れてしまうのだ。 ただ、今の会社は少しそういう所があって「今日はどこのお店に行きます?」とお昼時間に近くなるとここに行きたいとかお昼の相談が始まる…… 僕も、毎回断るのは、気まずいからたまに一緒に行ったりもするのだけれど、何かと理由をつけたり、わざとアポの約束をとって昼の時間は避けて帰ってきたりしていた。 これからどういうふうにコミニュケーションを取るべきか、精神的に疲れて迷っていた時に蓮に会った。 蓮は、誰に媚びる事もなければ、自分の好きなように自分の心の向くままに行動している。 嫌なものは嫌だと言うし、面白くなければ笑ったりもしない。常にクールではあるけれど、本当に面白い時には、たまにみせる全力の笑顔は、男の僕でもレアすぎて、少し得した気分で『ドキッ』としてしまう。 たまにみせる、こいつのクールだけど、可愛さのある笑顔を…… きっと、この笑顔をみた女性は、一瞬でこいつに心を奪われてしまうだろう。 友達になってから色々と蓮を知っていくうちに、こういう人っていいなと僕は思うようになった。 蓮に教えられて、僕も仕事でのコミニュケーションを素直に心の向くままに行動していこうと考えるようになり、 少しずつ僕の心も楽になって、周りに接して行く内に良い空気感が出来て自由で一定の距離感で接する事が出来るようになって、 仕事での悩みも自然と無くなっていた。 そして、暇があれば『ボヌール』へ行く。 それが、僕の日課になった。 蓮ともどんどん親しくなって、ずっと昔からの親友? 恋人同士か? と勘違いしてしまう程、会っていた。 たまに「俺はお前に会えて嬉しいけど、誰か紹介してやろうか?」とあのクールな顔で、真剣に言ってくる。 「お前はそんな心配しなくていいんだよ! 大きなお世話だ!」とそんな時は言ってやるんだ。 モテる男、蓮に紹介してもらったとしても、 蓮目当ての女に違いない。 僕は、蓮からみたら女っ気一つない、モテない男だろう。だから、初めて彼女とお店に行った時は、流石のクールな蓮もびっくりした顔を隠せずにいた。女性とお店に行くなんて思ってもみなかっただろう。 彼女と話している時も、度々突き刺さる蓮の視線が痛かった。 僕は、わかったよ! と表情で訴えたが伝わる訳もない。 「えっ? どうしたんですか? 」 そんなやり取りをしていると、彼女が気がついてしまった。 「誰か居るんですか?」と彼女は後ろを振り向く…… 後ろには、蓮が立っていて彼女と目が合う。 少しの間、見つめ合ったまま沈黙が続いたが、ああ。と二人とも状況がわかったのか軽い会釈をし、何事もなかったかのように戻る。 「店員さんとお友達なんですか?」 と彼女が話す。 「実は、そうなんだよ。 驚かせてしまってごめんなさい」と笑って誤魔化すが顔はひきつっていただろう。 「いえ、全然そんな事ないですよ。 あの店員さんがまさかお友達だなんて、世界は、狭いですね」 「本当だね。 そうだ。 自己紹介が遅れました、僕は神谷 新です。 よろしくお願いします」 「あっ、はい。 よろしくお願いします。 私は、 結城 (ゆうき はな)です」 と二人で一息つくと遅い自己紹介をする。 それからは、『ボヌール』のこの料理が美味しいとか趣味や休日は何をしていて最近みた映画など、不思議と話は途切れる事はなく続いた。 趣味や好みなど、合うようで僕達が打ち解けるのに時間はかからなかった。
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