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Lunch『花』
彼と待ち合わせ場所の『ボヌール』で会って
いつもと違う雰囲気の彼に少し心ときめいてしまう私がいる……
何を考えているの、私……
気持ちを落ち着かせながらお店の中に入る。
お店では、いつもいるイケメン店員さんが案内してくれていた。
「ご予約の神谷様ですね。 こちらへどうぞ」
と前を歩いて、私達はその後をついて歩く。
「こちらの席にどうぞ」と椅子を引き出して私が座ると同時に椅子も前に押してスムーズに座れるようにしてくれている。
久しぶりのお店だけれど、気配りが上手いイケメン店員さん。 安定の対応。
いつもクールな店員さん、でも、今日はいつもよりにこやかな気もする。
私が引越してきたばかりの時に、初めて『ボヌール』で食事をした時、 料理も美味しいし、イケメン店員さんにも心ときめいて、通い始めたっけ…… なんだかとても昔のようで懐かしい。
席について前をみると彼の表情が何故か変だと気がついた。
「えっ? どうしたんですか?」
「誰か居るんですか?」
私の後ろに誰かいるのかな? 何? 何? 気になり、後ろを振り返る。
後ろを振り返るとイケメン店員さんが立っていた。
私と目が合う…… 店員さんも私を見ている……
目があったまま、 本当に綺麗な顔をしているな。 と見惚れてしまっていた。
少しの間、二人で見つめ合っていた気がしたのは私だけ…… ?
はっ! と我にかえって会釈をして前を向く。
「店員さんとお友達なんですか?」 と私は尋ねると
「実は、そうなんだよ。 驚かせてしまってごめんなさい」と彼は気まずそうに笑っていた。
「いえ、全然そんな事ないですよ。 あの店員さんがまさかお友達だなんて、世界は、狭いですね」
「本当だね。 そうだ。 自己紹介が遅れました、僕は神谷 新です。 よろしくお願いします」
「あっ、はい。 よろしくお願いします。 私は、結城 花です」
と二人で一息つくと自己紹介をする。
神谷さんと食事をしなから、趣味とかいつも何をしているとか最近みた映画とかそんな話で盛り上がった。
最初は、真面目であまり趣味とか映画をみに行くとかしないだろうと思っていたけれど、意外と私と趣味が似ていて話が合う。
食事をしながら、話が途切れることもなくて、『ボヌール』の料理も私よりも、わかっていてこれは美味しいとか、どんな料理とか、神谷さんのおすすめの料理など、色々聞くことが出来た。
イケメン店員さんの事も聞いてみると高校の同級生だと聞いた。
『ボヌール』にも暇があると通っていたようだけど、今まで出会う事もなかったし、
こんな事があるのかとびっくりしてしまう。
もちろん、ぶつかってケガをした後からは、
いつも朝に同じ川沿いの道を歩いているな。 と気がついてはいたけれど…… すれ違うまでは、
気がつかないふりをした。
私の朝は、テンションが低いし、一人の世界で自然に触れていたいというのが本音。
私は、太陽の光を浴びて朝の少しひんやりした空気がとても好き。深く深呼吸をして空を見上げて、今日は雲が多い。 とか今日は空が青いな。 とか眺めて、目が覚めるのを待つ。
こうして自然に触れていると今まであった辛いことや嫌なことは全て忘れられる。
仕事以外に朝から「おはようございます。 今日も天気がいいですね」 とか、近所の人達は挨拶を交わしているけれど、そんなにテンションをあげられなくて、悪い印象を与えてしまいそうで、無理をしないようにしている。
本当は、挨拶はちゃんとしないといけないのはわかっているけれど、近所の人に声をかけられても会釈をする位にしている。
これでも、昔よりは良くなったほうで、少し前までは、誰とも口を聞きたくなかった。
だから、神谷さんと話すようになってから、
川沿いの道で視線を凄く感じていたけれど、会釈をする位にしていたし、彼も不思議と会釈をするだけだったからとても気が楽だった。
私の神谷さんへの印象は物静かな真面目な人としかなかったけれど、今日は、何だか雰囲気も違って凄くカッコよくみえる……
どうして、いつもこの髪型にしないんだろう。
きっと、モテると思うのに……
イケメン店員さんと神谷さんが目の前で話している。
二人を見ていると本当に仲がいいんだと感じる。例えるなら、恋人同士がじゃれ合ってるかのようにも見えるし。
二人をみていると自然と顔が歪んでしまう。
そして、こう二人を眺めているとイケメンだと実感する。
どうして、ケガした時も、神谷さんの事、こんなにイケメンだと気がつかなかったのかな?
私の心が『ドクンドクン』と脈打つ音が身体全体に響くのを感じる。
ああ…… 私、神谷さんの事、好きになったのかもしれない…… でも。
私は、再び誰かに恋をする気持ちが芽生えたこと、嬉しいという感情とこの気持ちをこれ以上は進めてはいけないという気持ちで悲しい気持ちになってくる。
私はもう、恋はしないと決めたから。
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