蓮の日常

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蓮の日常

俺は『ボヌール』のホールを守っている。 ここは、外観も良くて、シェフの料理も美味しくて、近所では人気店だ。 俺自身もここの仕事は気に入っている。 昔の学生時代に比べたら続いているのが嘘のようだ。嫌な事が少しでもあるとすぐ辞めていた。 ここで働いていると女の人からも声をかけられる事も多い。 俺は、断る事が苦手だし、欲求を満たすために、嫌いでない女ならすぐに抱いていたし、その後も上手く接して色々な女と過ごしている。 俺の評判が落ちないように気をつけながら…… たまに困る事は、ランチの時間に見渡すとほぼ全ての客が俺が抱いた女だった時があり、 心の中ではヒヤヒヤしながらも、表情は崩さないようにクールな藤本を演じていた。 そんな時に、彼女がお店に初めて来店したんだ。 他の女とは違う、キラキラした目で俺を見つめてとても透き通っていて欲望もない澄んだ視線で、いつも…… 見つめられる。 きっと俺の事は、何も考えてないんだろう。 彼女を観察していると窓側にいつも座って 外を眺めている。空を見上げて、幸せそうに微笑んでいる姿は、まるで天使のようで心を奪われた気がした。 彼女が来る度にこの、胸の痛みはなんだろう。何処かソワソワする気がするのはどうしてだろうと考えていた。 いや、きっと、その時から心を奪われてたんだと思う。 彼女は最初に来店してから頻繁に来店する事が多くなったし、俺も嬉しかった。 他の女は、俺に好意があるとすぐにわかったし、みんな積極的で連絡先を聞きたがるし、自分の連絡先を教えてくる。 連絡先を貰うと、俺は先ず連絡するし、会いたいと言われた時に気が向けば会ったりもした。 もちろん、その時は、俺の欲求を満たして貰うけどね。 無理やりはしないけど、拒んだりしたら、その次はない。だって、めんどくさい女は嫌いだし、お互いの欲求を満たせないならつまらない。女は星の数ほどいる。 だけど、彼女は…… 俺に行為を持っていそうなのに近づいて来ない。俺も今までの女とは違う彼女に少し興味が湧いてきて笑いかけたりするけれど、反応は薄い…… そろそろ俺への想いが大きくなる頃じゃないかな。さあ。どうする? 彼女の様子を伺う。 俺は自分の中でルールを決めている。 お店で出会う女は俺からは連絡交換しない。 変な噂でもたったら、お店の人達に迷惑がかかるし、お店の売り上げにも影響するから。 プライベートで会った女は別で、良さそうだと思ったらすぐにものにした。 お店でもプライベートでも俺に行為を持ってる女がほとんどだけどね。 相手の女の別れ方も少し違う。 お店の場合は、『今、忙しいんだ。ごめんね』 と優しい言葉をかけつつ遠回しに断っている。 プライベートで出会う女は『俺、めんどくさいの嫌いなんだよね。 色々忙しくてね。 相手にしてくれる人はいっぱいいるから、 ごめんね』 そう言ってふるけれど、中には 『それでもいい…… 一緒に居られるだけで。 もう、 会ってとかうるさく言わないから』 そう言う女には 『わかったよ。 今度、 俺から連絡するからそれまでいい子で待っててね』と頭をポンポンと撫でて抱きしめている。 そうすると大体は待ってて呼んだ時は喜んでくる。 もちろん、もうやだと言う女には引き止めたりもしない。 俺は、今まで、色んな女を抱いてきたけれど、 誰も好きになった事はない。 その方が離れて行ってしまった時に、嫌な想いをしないですむ。 だけど、彼女の場合は少し気持ちが違う気がしていた。 全然声をかけてこない彼女に今度、来店したら思い切って声をかけようと決めていた。 俺は決意を決めたと言うのに…… それから彼女はパタリと来なくなった…… 彼女の事が頭から離れなくなってしまった。 ずっと、心のどこかで待ってしまう自分がいた。他の女達も、いつもこんな気持ちだったのだろうか…… そんな時に、彼女は新と来店した。 俺は動揺を隠せなかったけど、彼女に会えた嬉しさもあって顔が緩んでしまう…… 俺は新と絡んで緩んでしまいそうな顔を誤魔化す。 新は俺に顔で構うなと訴えかけてくるけど、 彼女から目が離せない。 彼女の後ろ姿を見つめながら…… 「えっ? どうしたんですか?」 「誰か居るんですか?」 彼女が振り返る。俺は、目を逸らさないと、と思いながらも目を離せない。 彼女も俺の事をみている。少しの間、目が合って見つめ合う…… 彼女は、少しして会釈をして身体の向きを前に戻した。 俺は、彼女と見つめあって確信した。 ずっと、彼女の事が気になっていたけれど、その気持ちは好きなのかもしれない…… と。 ホールで接客をしながら二人が気になって仕方ない。二人は楽しそうに話しているし、新も彼女が好きなのは一目でわかった。 あんなに幸せそうな顔して笑ってるんだから。 彼女も楽しそうに笑っている。 何を話しているかも気になるから、二人に絡んでみる事にした。 「新、楽しそうじゃん! 俺も混ぜてくれよ〜」 「おい! 蓮、 邪魔するなよ、今楽しく話してるんだから」 とシッシッっと右手を前後に降る。 「新く〜ん、つめた〜い」 と彼女を見つめる。 彼女は、気を使ってくれたようで 「全然大丈夫ですよ。 お二人仲良さそうで羨ましいです」 と言ってくれた。 「そう? じゃあ、 今度三人で飲みに行こうよ〜」 「私は大丈夫ですよ。大歓迎です」 「新は?」 「わ、分かったよ…… 」 新は少し不満そうだったけど、三人で連絡先を 交換して三人のグループを作って、連絡を取り合うようにした。 「じゃあ、 店探すね。 また連絡するよ」 お店は俺が探すことになった。これで、俺は彼女と連絡がとれる…… 新…… ごめんな。と心の中で呟きながら もう、気持ちを抑えることが出来なくなってきていた。 彼女の名前は『結城 花』と言う名前だと連絡先を交換した時にわかった。 いつも穏やかに微笑んでいる笑顔は『花』と言う名前のイメージにピッタリだ。 俺は、花がいてくれれば、今までの女達を切ってもいいと彼女の笑った顔をみてて思う。 花のそばに居たい…… 数日たって三人で飲むお店をどうしようか考えていた。 花の好みを知りたい。考えてみれば、花の事、何も知らないな。思い切って電話をしてみる事にした。 ーープルプルル、プルルーー 「はい」 「あっ、俺、藤本だけど、分かる?」 「はい。 今日はどうしたんですか?」 「突然連絡してごめん。 お店を決めてたんだけど、どんなお店がいいか聞きたくて」 「あ、そうなんですね。 ありがとうございます。 私は特に好き嫌いないので何でも大丈夫ですよ」 彼女は笑いながら答える。 それから、少しの間、花と世間話をした。 自然に話をするのは俺は得意だから。 「俺、 今度から花って呼んでいい? 俺の事は蓮って呼んで。 もっと花と仲良くなりたいからさ」 「えっ! で、でも…… 直ぐには呼び捨てでなんて呼べないです……」 「俺がいいって言ってるんだから。 ほら、 呼んでみて」 「れ、蓮……」 「はい。 よく出来ました。」 「じゃあ、 お店決まったら連絡するね」 「はい。 よろしくお願いします」 そう言って俺達は電話を切った。 電話を切った後は、はぁ〜 。 と大きいため息を吐く。緊張と安堵感が入り交じって身体の力が抜ける。 どの位運動したんだよ。 と思う程にぐったりと身体が重い。 俺、相当頑張ったんだな。 と一人呟く。 今まで生きてきて、全く無かった。 人を好きになって頑張る事。 「いつの間にか俺、花の事、すごく好きになっちゃったんだな」 花の事を考える。花と連絡がいつでもとれると思うと嬉しい。 新には渡したくない…… 負けたくない…… 新は、昔からあまり目立つようなタイプではないけれど、よく見れば、俺よりもかっこいいし、内面も一人の人を大事にするタイプだと思う。 表だけ見る女がほとんどで、外見が目立つ俺はよくモテる方だと思う。 でも、ちゃんと内面も見ている女は、俺よりも新を好きになる事が多い。 高校時代、あの時は仲良くなかったけど、よく新が気になって観察していたっけ…… あの時、新の事を好きな女子がいて、俺とよく目が合っていたけど、 内面をよく見ている女子は、自分をずっと愛して大事にしてくれる男子を好むし、俺は今まで女を心から愛した事がないから、それもバレてしまっているようで、新の近くにいても目もくれない。 みんな、女子は俺と目が合うと目をキラキラして寄ってくるのに…… そうだった。昔の事を思い出す。 でも、今回は、花は、どうなんだろう。 外見だけみる? 内面も見れる? どちらにしても、新がライバルとなると脅威だ。 俺も、花の事は本気だから真面目に誠実にぶつかっていこう。
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