13人が本棚に入れています
本棚に追加
5.女神様とフロ
「じゃあ、あなたはあの祠の神様だと……そうおっしゃるんですね」
「そうだ」
十個目のおにぎりにかぶりつきながら、女は深々とうなずいた。
大橋は混乱する頭を何とか冷静にしようと深呼吸をしてから、もう一度その女を上から下までまじまじと見つめ直した。
――変な格好してるし、あり得ないほど美人だし、とんでもなく食うし、確かに普通じゃないけど……。
だからといって、即座に「神」だなんて話を信じられる訳がない。
ひょっとしたら祠に一万円を投げ込んだのを見て、自分を騙そうとしているのかもしれない。いや、きっとそうだ。そうでなければ、こんな美人が自分の所なんかに来る訳がない。大橋はそう思い直すと、胡乱な目つきでおにぎりをパクつく女を眺めやった。
と、十個目のおにぎりもぺろりと平らげた女が、大橋の視線に気づいて顔を上げた。視線があうと、大橋の猜疑心など知る由もなく、屈託のない笑顔でにっこりと笑う。大橋はなんだかどぎまぎしてしまって、目線を左右に泳がせると、慌ててこんな質問をしてみた。
「……じゃ、じゃあ、あなたは何の神様なんですか」
女は考え込むように中空を見つめた。
「おまえたち人間には、七福神と呼ばれているらしいな」
「七福神? あの、宝船に乗ってるやつですか?」
大橋の頭に、頭の長いじいさんや、でっぷり太って小槌を手にした男が、笑顔満開で宝船に乗っている映像がぱっと浮かんだ。
女は、苦笑いをしたようだった。
「七人いると縁起がいいからと、おまえたち人間が勝手にいろいろなところの神を寄せ集めて七福神をつくったんだろう。もともとは別の地に住む、別々の神だ。まあ、七福神信仰のおかげで、私もこの地に祀られた訳だから、文句は言えんがな」
「え、じゃあ、あなたは……」
「私はこの国では弁財天と呼ばれている。本当の名はサラスバティ。インドという国が故郷だ」
大橋は、再びおにぎりにかぶりついている女をまじまじと見つめた。
「サラスバティ……ヒンズー教では確か、大河の神と見なされていますね」
「そうだ。よく知っているな、おまえ」
大橋のつぶやきに、女は嬉しそうにうなずいた。
「だから私は、水がないと苦しくてな。あの祠では、水を手向けてくれる者もいなかったから、いつも雨水を飲んでしのいでいたんだ。おまえにこんなうまい水を飲ませてもらって、生き返った気分だ。本当に感謝している」
にこにこしながらそう語る女性を、大橋は上から下までまじまじと眺め回した。
――この人、マジでこんなこと言ってるのか?
最初のコメントを投稿しよう!