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1.ケヤキと祠
「最低最悪だ」
大橋拓也は小声で吐き捨てると、大蛇の背さながらにゆがんでねじれた道路に一歩、足を踏み出した。
道路のうねりに足をとられ、体がぐらりと右に傾く。大橋は倒れそうになりながらもなんとか体勢を立て直すと、パンパンに膨らんだビジネスバッグを持っていない方の左手で、ずれた黒縁眼鏡の鼻根を押し上げた。
「だいたい、なんだってこの道路、こんなにゆがんでやがるんだ」
そこは、歩き慣れているはずの通勤経路。寝過ごしたため、今朝も猛ダッシュで駆け抜けた住宅街の道だ。その時はなんともなかった。大橋の記憶では確かにそうだ。だが、今はなぜだかジェットコースターのように大小さまざまな起伏に富んでおり、とてもまっすぐに歩ける状態ではない。大橋は左右に大きく体を揺らしながらよろよろと、まるで足のおぼつかない高齢者のように、その道を自宅へ向かって歩いていた。
歩きながら、やけ気味に足元の小石をけっ飛ばす。小石は道路わきの街路灯に鋭い金属音をたてて跳ね返り、大橋の方へまっすぐに飛んできた。大橋はたたらを踏むような格好でその直撃を避けると、深いため息をついた。
――やってらんないよ。俺の人生、悪い方にばかり転んでいきやがる。
確かに大橋の人生は、順調とは言い難い。
大人しく気弱な性格の彼は、地味で目立たずどちらかといえばいじめられるタイプで、中学時代に父親が急な病で亡くなったあと、一時不登校になったりもした。浪人して何とか三流大学に滑り込んでほっとしたのもつかの間、卒業する頃には世は不況の嵐。仕方なく成り行きでとった教員免許を生かして教員を目指すも採用試験で落ち続けた。ようやく合格通知を受け取ったのは採用試験に挑戦して三年目、そんな彼を支え続けた母親が心臓発作で亡くなった日の翌日だった。
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