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少しの期待と
だからあれ以来誰ともセックスはしていない。
いや、できない。
恋人を失い、どうしようもなく寂しくて人肌を求めた事がある。
だけどわたしの中心は何をしても反応する事はなかった。
だというのに――彼にわたしは……?
横に眠る彼を見る。
昨夜の事を思い出そうとしても、いくら考えても思い出せない。
困った事にまったく記憶がないのだ。
家に連れて帰り、その後……?
普通に考えれば不能なわたしの事。昨夜は何もなかった。
裸なのはただ単に服の締め付けが嫌で脱いだだけ。
または暑かったから脱いだ。
――――この寒い季節に? 下着も残さず?
さすがにあり得ない、と思った。
とにかく、だ。
昨夜彼と関係を結べたのだとしたら、わたしは再び筆を握る事ができるかもしれない。
またあの心が燃えるような全身に快楽が駆け巡るような――あの恍惚。
恋人が去って五年。わたしには絵しか残されてはいないのだから。
再び絵が描けるのならなんだってしてやる――――。
だがしかし、昨夜の事をまったく覚えていないのは……少し残念だな。
未だ眠る彼の寝顔を見ながらそんな自分勝手な事を思った。
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