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彼は「にゃあ」としか鳴かない
彼は昼過ぎにもそもそと起きてきて、「にゃあ」と鳴きごはんを要求した。
人間用のごはんと焼き魚とみそ汁を彼の前に置いてやると、ぱくぱくと食べ始めた。
箸は使っているものの本物の猫のような食べっぷりに頬が緩む。
裸でうろうろする彼にわたしは自分の小さくなってしまった服を着せてやる。
それでも彼には大きいようでぶかぶかだ。
彼は気にした風もなくごはんを食べて満足したのかソファーの上で丸まって寝てしまった。
彼はずっとこのまま猫のように振舞うのだろうか?
いや、そのほうがわたしとしても都合がいい。
誰かと暮らすというのは――。
猫なら気が済むまでここにいて、いつでもどこかへ行けばいい。
わたしはもう誰の事も愛せないし、愛する資格もない。
わたしは唯一愛したかつての恋人を裏切って深く傷つけてしまったのだから。
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