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再びの喪失
描き疲れていつの間にか眠ってしまっていた。
ふと目が覚めて彼の姿を探す。
お気に入りのソファーの上、トイレ風呂アトリエ、全ての部屋を探した。
しかしどこにも彼の姿はなかった。
彼を拾った時に身に着けていた服もなかった。
この家から出て行ったのだろう。
何がいけなかったのか。
ただここでの生活に飽きてしまったのか?
猫ではなく人間に戻りたくなったのか?
こんなに埋もれる程彼を描いてしまったのが気持ち悪かったのか?
またわたしは失ってしまった。
沢山の彼の絵と喪失感だけが残る。
見つめる先にふと気づくものがあった。
彼の絵に埋もれてかつての恋人の絵が置かれていたのだ。
「どうしてこんなところに――」
恋人がいなくなり見る事ができなくなって、押入れの奥の奥に仕舞ってあった物だった。
持ち上げるとひらりと落ちる紙切れがあった。
見るとかつての恋人の文字で住所が書かれてあった。ところどころ涙でできたシミが残っている。
――――これ、は……。
彼は、三夜はわたしに追いかけて欲しかったのか……?
わたしは……キミが最後にわたしにくれたチャンスに気づかなかった?
三夜…三夜………ごめん。ごめん……。愛していたよ…………。
住所の書かれた紙きれを胸に抱き、三夜を想って涙を流した。
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