過去に別れを、彼を迎えに

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過去に別れを、彼を迎えに

 この住所に行ってみよう、そう思った。  わたしは三夜に会わなくてはいけない。  電車を乗り継ぎたどり着いた住所。庭から楽しそうな笑い声がふたつ。  三夜はわたしの知らない誰かと幸せそうに笑いあっていた。  わたしの記憶の中では笑わなくなってしまっていた三夜が、笑っている。  よかった。  本心だった。  わたしが傷つけてしまった三夜。その人と今は幸せなんだな。  今までごめん。どうか、どうかどうか幸せに。  わたしはふたりの後ろ姿に遠くから深々とお辞儀をし、駅へと戻った。 ***** 「何で、声かけねーのっ」  振り向くと彼だった。  いなくなってしまった彼がこんなところにいる。  これは偶然ではなくて、もしやと思っていたがやはり三夜と何かしらの関係があるのか?  いつもは「にゃあ」と鳴くだけの彼。  不機嫌な顔をした彼が普通に人間の言葉を紡ぐ。  人間なのだからおかしな事ではないのだが、少し不思議な感じがした。 「会いに来たんだろう? 会わねーでいいのかよ?」 「いいんだ。三夜はあの人と幸せなんだろう?それが分かっただけでわたしはいいんだ」 「違う! まだ三夜ちゃんは待ってる! あの人は確かに三夜ちゃんに交際を申し込んでる。だけど三夜ちゃんあんたの事が忘れられなくて迷ってるんだ。だから従弟の俺にあんたの様子見に行ってって頼んで――!」  なるほど従弟だから三夜に似ていたのか。  睨んだ瞳がどこか優し気なのも、そうか三夜に似ていたから――。 「それでも、わたしは三夜に会う事はできない。もうわたしは見つけてしまったから」 「何を……見つけて――」 「キミを――、キミを見つけてしまった」  まっすぐにキミの瞳を見つめる。
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