最悪のプロローグ

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最悪のプロローグ

 出会いは最悪だったと言える。 「あらあら。子供がいたのね。話が違うじゃないの」  言葉と共にキセルの煙を吐き出す。  まるで真っ黒な滝のような綺麗な髪を持つ全身黒づくめの美しい女は、そんな言葉を発しているのにその表情はまるで後悔を感じられなかった。  骨よりも真っ白な髪と肌を持つ少年は、自分の動かなくなった親を必死でゆすりながら泣き叫んだ。しかしそれも次第に憎悪へと変わっていく。 「お前がッ、お前が――」 「は~、やだやだ。その汚らわしい眼。そんな眼をあたしに向けないでくれるかしら?」  扇子を口元に当てて飄々と言う。  しかし正直なところ迷っていた。  はてさて、これからどうしたものか。  このままこの子供を殺してもいいし、喰ってもいいし、何もせずに帰ってもいいし。ただわかっている事が一つある。 「あたしは退屈なのよね」  何もかもが退屈な毎日だった。それを変える何かがほしいと思っていた。刺激のある日々を送りたい。 「あっ、いいこと思いついちゃった」  彼女は膝を折り、少年と視線を合わせる。少年にその美しすぎる顔をこれでもかと近づけてシニカルに笑って言う。 「あなた、どうせこれから行くところもないのでしょう? あたしのところに来ない?」 「…………」  少年は言葉の意味を理解できなかった。 「あたしの暇つぶしの相手になってほしいのよ。頑張ってあたしを殺してちょうだい」  ぽん、と少年の頭に手をおいて撫でる。少年は彼女を睨んだまま心に決意をした。 「絶対にお前を殺してやるッ! 絶対にだ!」 「うふふ、期待しているわ。あたしはペスト。あなたのお名前はなあに?」 「アルビノ、アルビノだ!」  これが魔女ペストと少年アルビノの最悪の出会いだった。
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