序章ー結婚式ー

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(悪夢だわ。思い出したくないほどの悪夢だわ、これは) たとえば。 青みがかったような黒い瞳は、茅で裂いたようにように鮮やか。 奥二重のまぶたはむしろ涼やかで知的……きわめて冷静な印象。 高い鼻梁と形の良い薄い唇、頬骨の高さ。 額はしっかりと出ていた。 長く黒い前髪を綺麗に後ろへと流し、襟足は潔癖なほどに揃えている。 清潔で一つも欠点のない相貌をしていた。 しかし、鋭い眼差しと硬質の唇は結婚式をこれからあげる新郎としては厳しすぎるものだった。 ソーシャルダンスの花形のように姿勢正しくタキシードを着こなし、わたしへと手を差し伸ばす男、灘湊一郎(なだそういちろう)、34歳。 地域商社 灘コーポレーション社長。そしてわたしの祖父が一代で築き上げた会社を傘下におさめようとする野心家でもある。 だが、屋敷と組織を守るためにわたしはこの手を取る。 果たして、その想いはわたしの本心なのだろうか。 わたしには、記憶が、ない。
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