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が、灘からのキスはなかなか唇に落ちてはこなかった。
わたしは、ぎゅ、と閉じた目を開けた。視界がわずかに曇った。が、すぐに明瞭となる。
青い空、白いチャペル、紺碧の海、そして灘さんの顔。
『あの男が迎えにきたぞ、いいのか』
そう言っているような、それでいて完全に無表情のような……
冷酷に見えて、哀しんでいるような、淡々と時を止めている灘の切れ長の黒い瞳、そして整った鼻梁、さらに硬質で形の良い唇。
わたしは再び目を閉じた。
鳴海航の去っていく気配を感じる。
水を打ったように静まり返った空と海の間。
この白い陸地でわたしは灘の唇を待った。
誓いのキス……
それは額にそっと降りた。
そしてわたしは灘湊一郎の妻となったのだった。
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