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ホテルでの結婚式は無事に終わった。
出席する客はほとんどいなかった。
灘湊一郎は、
この醜態を想定していたのか
あるいは式など形だけだからか
茶番だとすら思っていたのか
わたしは歓迎されないような式を挙げた。
屋外の結婚式場から、ホテル内部へと移動する。
ホテル玄関から館内へと通ずるエントランスは、進むにつれて印象が変わっていく。
明るい外気と淡い緑豊かなアプローチだったのに、鮮やかな陰影がつく。
その分、ホテルのプライベート感が上がる構成だ。
黒曜石の床に、鏡⾯仕上げで、奥に広がる深い緑の⽇本庭園が映り込む。人口の滝が流れていて水の音がする。
右脇の光沢のあるグランドピアノも漆黒だ。
そのモノトーンの鍵盤から奏でられている室内楽は自動のものであったが、人間が押しているかのように、上がったり下がったりしている。
その先のロビーも同じく鏡面仕上げで、自然石で作られた玄武岩テーブルとカウンターに日本庭園が映り込んでいる。
玄武岩にはキラキラとした、カンラン石を含んでいた。しかし、正確に外の景色を反映することはない。
「外」と「内」
「過去」と「現在」
日本庭園という「自然」と「人工物」
調和が保たれていながら、真逆だ。
わたしは心が凪いでいた。
凪いでいながらも荒れ狂っていた。
今、自分が渦中にあることを自覚しながらも、静観していた。
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