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ユウキが家を飛び出して、もう何時間経ったのか。
わからないけど、今日も帰るのは同じマンション。
一緒に謝ってあげないとな。
ユウキへの気持ちが恋心だと気づいた時から、こんな苦しい道のりになるとは思わなかった。
それでも、多くの壁を乗り越えて、やっと同じ気持ちになれた。
私がユウキを支えるわけではなくて、お互いに支え合って生きていける。
これからずっと、どこまでも。
「ナオ、これから迷惑かけるけど、よろしくな!」
施術も終わりに近づいてきた頃、ユウキが聞き覚えのあるセリフを言い放った。
私は『当たり前でしょ』と、あしらうように返すと、ユウキは黙って頷いた。
「本当に、俺も、ナオが好きだ」
今度は真顔で、このタイミングには相応しくない愛の言葉をかけてきた。
あまりにも不器用な言い方だったから、思わず笑ってしまう。
恥ずかしそうなユウキの顔を見て、私も一度だけ頷く。
最後の反射区の施術を終えると、ユウキは満足そうな顔に変わった。
足裏全体が凝り固まっていた最初に比べて、だいぶ柔らかさを感じられる。
「はい、おしまい。どうだった? プロの施術は?」
「うーん……」
足元を眺めながら、的確な感想を考えている。
そんなに深い言葉は期待していなかったので、何と言われるか余計に気になった。
「ナオの手、めっちゃ温かった」
「え……」
ユウキの足に、温もりが伝わった。
私の手の熱が、ユウキの冷たい足を、温めることができたのだ。
それだけで、この一年間の努力が、全て報われた。
「まあ、ヒトの手……だからね」
最後にそう告げると、ユウキは優しく微笑んだ。
月の光が、私たち二人を見守っているように感じた……。
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