クリスタル

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「じゃあ、今日もよろしくお願いします!」  初めて自主練をした日から、戸部君は足を貸してくれる方に、欠かさず一礼をする。  そのやかましい声にはもう慣れたもので、最近は返事もしていない。  黙って素足を差し出すと、戸部君は真剣な眼差しで足裏を直視する。  その顔つきを見届けると、私はゆっくりと体を倒した。    私の冷たい足と、戸部君の温かい手がぶつかって、ジーンと染みるような感覚が体を駆けていく。  パウダーをつけて滑りやすくなった私の足は、物の見事に熱を帯びてきた。 「ナオちゃん、起きてる?」  スタートから眠る気満々だったけど、頭は意図せずに冴えているみたい。  寝ているふりなんてする必要もなく、しっかりと戸部君に返答する。 「起きてるよ。どうしたの?」   「いや、やっぱり眠れてないのかって」 「だって、まだ施術始めたばかりじゃない。そんなにすぐには眠れないよ」 「違う違う。今じゃなくて、最近だよ。寝れてないでしょ?」 「え、ま、まあ……」  まさしくその通りだった。  ユウキのことを考えてしまうせいで、満足に眠れない夜を重ねている。  昨日に至っては、岸井さんの生の声が脳内でリピート再生されて、心が落ち着いた気になれなかった。 「やっぱりそうなんだ」 「どうしてわかったの?」  戸部君の温かい手を前に、自分で考えることはできなくなっていた。  直接、戸部君に聞いた方が早い。  どうして、私が最近寝れないことがわかったのか。 「答えは簡単。クリスタルだよ」
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