128人が本棚に入れています
本棚に追加
「クリスタル?」
「そう。ナオちゃんの親指にクリスタルがいっぱい溜まってた。もう結構潰したけどね」
親指は、頭や脳が反射している。
ボーっとしてて、戸部君がどこを施術しているか、気にしていなかった。
リフレクソロジーを通して、お疲れを完全に見抜かれた気分だ。
「確かに、最近睡眠不足なんだよね」
「何かあったの?」
柔和だった表情が、男らしく変わっていったのがわかった。
普段の戸部君とはギャップがあって、何とも頼りがいがある。
でも、私の悩みや恋の相談を、異性にするなんてできない。
適当なことを言ってやり過ごそうと、言葉を選んでいたら、それよりも先に戸部君が口を開いた。
「まあ、人生いろいろだよね」
あっけらかんとしたセリフに、脱力してしまった。
あえて笑えるような空気を、作り出してくれたのかもしれない。
戸部君とは、そういう男だ。
「そうだ、そんな時は楽しいことを考えればいいんだよ」
「楽しいこと?」
「そう、そろそろ文化祭の季節だよね? バイト先の近くに千代大学があるんだけど、一緒に文化祭行こうよ」
「え、千代大学って……」
千代大学は、ユウキが通っている大学のこと。
すなはち、岸井さんも通う大学。
こんな偶然があるなんて、予想もしていなかった。
千代大学の文化祭なんて、行けないに決まっている。
「いや、私はやめておくよ」
今日はずっと暗くならないようにしていたけど、さすがに明るくは振舞えなかった。
そこまで演じることは、今の自分には難しい。
戸部君には、元気がなくなった私が映っているはず。
最初のコメントを投稿しよう!