クリスタル

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「クリスタル?」 「そう。ナオちゃんの親指にクリスタルがいっぱい溜まってた。もう結構潰したけどね」  親指は、頭や脳が反射している。  ボーっとしてて、戸部君がどこを施術しているか、気にしていなかった。  リフレクソロジーを通して、お疲れを完全に見抜かれた気分だ。 「確かに、最近睡眠不足なんだよね」 「何かあったの?」  柔和だった表情が、男らしく変わっていったのがわかった。  普段の戸部君とはギャップがあって、何とも頼りがいがある。  でも、私の悩みや恋の相談を、異性にするなんてできない。  適当なことを言ってやり過ごそうと、言葉を選んでいたら、それよりも先に戸部君が口を開いた。 「まあ、人生いろいろだよね」  あっけらかんとしたセリフに、脱力してしまった。  あえて笑えるような空気を、作り出してくれたのかもしれない。  戸部君とは、そういう男だ。 「そうだ、そんな時は楽しいことを考えればいいんだよ」 「楽しいこと?」 「そう、そろそろ文化祭の季節だよね? バイト先の近くに千代大学があるんだけど、一緒に文化祭行こうよ」 「え、千代大学って……」  千代大学は、ユウキが通っている大学のこと。  すなはち、岸井さんも通う大学。  こんな偶然があるなんて、予想もしていなかった。  千代大学の文化祭なんて、行けないに決まっている。 「いや、私はやめておくよ」  今日はずっと暗くならないようにしていたけど、さすがに明るくは振舞えなかった。  そこまで演じることは、今の自分には難しい。  戸部君には、元気がなくなった私が映っているはず。
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