スターマイン

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「ごめんごめん、凄い混んでて遅くなっちゃった」    目線が空に夢中になっている中、早足で二人が戻ってきた。  戸部君がビニール袋に入っている、少し冷めた焼きそばを渡してくれる。  あらかじめ握りしめていた五百円玉と交換すると、少しだけ戸部君との距離が近くなっている入来ちゃんと目が合った。 「ついに始まったね」  入来ちゃんが笑顔たっぷりでそう言うと、こっちまでつられて笑みがこぼれてしまう。  濃密な時間を送れたようで、安心した。  大丈夫、フィナーレはもっと濃い展開になるから。    そこからは、名前はわからないけど綺麗な花火が、次々と打ち上げられて、我を忘れてはしゃいでいた。  でも私以上に周囲のみんなも楽しそうで、掛け声が聞こえてきたりとか、子供が泣く声とか、会場はとにかく大盛り上がりだった。  初めて、花火大会が楽しいと思えている。  どんどんフィナーレに近づいていると思うと、ちょっぴり寂しい気持ちになってくる。  でも横には、一発打ち上がるごとに声を出して喜んでいる二人がいる。  この二人に、ひと夏の思い出を。  夏の力を借りて、幸せな瞬間を。  どうにか、恋仲同士になりますようにと願いながら、私はその場を離れる決意をした。  二人が花火の方に目を向けているのを確認すると、そっと帰り道に向かって歩き出す。  時間的にも頃合いだろう。この後はクライマックスのスターマイン。  人がばらついている道を駆け抜けると、もう元の場所は見えなくなった。
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