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「ナオちゃん、どこ行くの?」
え……?
その温度は、感じたことがある温度だった。
いつもその手が、私の足裏を包んでいる。
暗い道の中、微かに見えるのは、訝しげな目でこちらを見つめる戸部君の姿。
「戸部君……」
「急に消えちゃったから心配したよ」
「ごめん、トイレに行こうとしたら道に迷っちゃって」
「そうなんだ、それにしても迷い過ぎだよ。そっち駅だよ?」
「あ、ごめんね。でももう終わるし、このまま帰ろうかな」
心を抉るような鈍い痛み、それが徐々に浸透してきて、戸部君と会話するのも鬱陶しく感じてくる。
ミッションは失敗、心には深い傷が。
入来ちゃんには、本当に申し訳なく思う。
でも、今は自分の精神状態が極限まで落ち込んでいる。
ユウキに真相を迫れないのなら、もういっそ帰って眠りたい。
「じゃあ、俺も帰ろうかな」
「え?」
「……って言ったらどうする?」
戸部君が冷めた顔で、そう問いかけてきた。
戸部君も帰ったら、入来ちゃんが一人きりになっちゃう。
そんなこと、できるわけがない。
「入来ちゃんが心配になるでしょ。戸部君は居てあげなよ」
「さっきまでナオちゃんがそうだったんだぞ!!」
突然声を張り上げた戸部君は、今まで見たことのない血相の変え方をしている。
花火の音で大声はかき消されたけど、私の耳には淀みなく届いた。
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