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「本気で心配したんだぞ! 俺だけじゃない、入来ちゃんだって。探しに行こうと思っても、今度は入来ちゃんが一人になるし。入来ちゃんが私はここに居るから大丈夫って、戸部君は探してきてあげてって。何にも言わずに消えたらそりゃ心配するだろ!」
熱が入った言葉に、ぐうの音も出なかった。
花火が空を彩っている中、下を向いているのは私くらいだと思う。
何一つ間違いのない戸部君の発言が、私の傷ついている心に追い打ちをかけてくる。
その状況に苦しくなって、自然と涙が出てきた。
その涙はユウキのせいか、戸部君のせいか、それとも花火の煙のせいなのか。
感情がぐじゃぐじゃな自分では判断ができない。
花火の光に涙が反射したのか、戸部君がそれに気づくと、責めるのを諦めた。
「ナオちゃん、入来ちゃんのところに戻ろう」
そういうと掴まれていた腕を離して、今度は手を握られたまま進み出した。
私は言われるがままに、戸部君について行く。
頭の中は、まだ未整理のまま。
二人への罪悪感と、ユウキに対する想いが、ひたすらに駆け巡っていた。
「ナオちゃん?」
手を引かれながら、ちょうど連続連射のフィナーレを飾っている中で、急に戸部君が立ち止まって私を呼んだ。
「なに……」
どうしても元気のある返しはできない。
今は受け答えするので精一杯な状況にある。
そんな私の曇った表情を読み取ると、ニコっと笑いながら目を見つめられた。
「ナオちゃんの浴衣、本当似合ってるね。シンプルなところがナオちゃんにピッタリだよ」
「……なにそれ」
予想していなかった角度からの話題。
今更、浴衣の話をされるなんて。
その意外性に面白くなっちゃって、口元が緩んでしまった。
その日は……いろんな意味で忘れられない思い出となった。
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