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確実に顔を認識できるところまで行くと、ユウキが私の存在に気づいた。
車イスを支えている女性も驚きながら、小さな会釈をしている。
まさかの対面で、言葉を失ってしまう。
「ナオ、今帰ったの?」
「え、うん……」
「あ、この人は岸井 沙良(きしい さら)。サークルの先輩で、家が近いからよく送ってくれるんだ」
紹介を受けた隣の女性は、緊張しながらも表情を緩ませていた。
小さな会釈も止めて、私の目を見ると、口元を手で隠すようにして自己紹介し始めた。
「ユウキと同じ大学に通っている、岸井です。ナオさんの話は、いつもユウキから聞いております。かなりお世話になっているみたいで。本当にありがとう」
その言葉だけを聞くと、まるでユウキの保護者みたいで、何か鼻についた。
私は一応『こちらこそ』と言って対抗したけど、どう見ても関係性は岸井さんの方が濃いと思われる。
「じゃあ私は帰るわね。またサークルで」
帰り際にまたまた小さな会釈をして、駅とは反対の方に向かって歩き出した。
岸井さんの家はこの辺らしいけど、まったく見たことがない。
たぶん区域が違うのかも。
薄暗いエントランスにユウキと二人になった今、心臓の鼓動が急激に早くなりだした。
岸井さんの姿が見えなくなった瞬間に、心を決めて聞くことにしていたから。
岸井さんは、ユウキにとってどういう存在なのか。
けっこうな頻度で送ってもらっているみたいだし、花火大会も一緒に過ごしていた。
私が高校二年生の時に、あっさり断られた花火大会に。
よく考えたら、今日まともに会話していないユウキに向かって、いきなり聞くのもおかしいけど……耐えられなかった。
「ユウキ……あの人、もしかして彼女?」
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