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母の言葉が、この豚汁のように心に染みてくる。
母は料理を通じて、温もりを与えることができる人間だったらしい。
私の冷えきった心を、優しく温めてくれた。
リフレクソロジストを志す理由も消えて行きそうだったけど、何とか踏み止まらなければ。
母に貰った恩を、仇で返すことはしたくない。
ユウキには……私の手で温もりを伝えたかった。
ユウキの隣に居るのは、いつも私だと思っていた。
だけど、それは叶いそうもない。
だからって、リフレクソロジーを嫌いにはなれない。
ユウキと同じように、温もりを伝えたい人がまだいるかもしれない。
失恋を受け入れるのは、全ての行動が嫌になるくらい辛いけど、失恋によって今あるものを失いたくはない。
完全に切り替えることは難しいけど、新たな自分を探すことに恐れを抱いてはダメだ。
きっとこの先、何かが見える。
そう決意した次の日、まだ癒えきっていない気持ちのまま、リフレクソロジー合宿に向かうこととなった。
「うわぁ、すげえ! 見て見て、海が見えるよ!」
熱海駅に着いた途端に、戸部君のテンションが天井を超えた。
すでに新幹線の中からうるさかったけど、傷心の私にはそれが心地良く思えた。
「戸部君、早くホテルにチェックインしようよ」
呆れるように、入来ちゃんが戸部君を説得する。
今日こそは、入来ちゃんの役に立てるようにしないと。
人に気を使っている場合ではないということはわかっているけど、花火大会の時のミスを取り返したかった。
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