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「え、みんな見てよ! 部屋からも海が見えるよ!」
「戸部君は隣の部屋でしょ。ここは女子部屋なんだから出てってよ」
「あ、ごめんごめん」
ホテルは海の目の前にあるため、部屋からは贅沢な景色が一望できる。
今回は観光することをやめて、おとなしく部屋で施術の練習をすることにした。
一応合宿という名目だから、その辺はきっちりしようというみんなの判断。
一人寂しい戸部君の部屋に、施術のために合流する。
入来ちゃんが戸部君に足を貸してあげるみたいで、自主練の時と同じように、私はその姿を観察していた。
思っていたよりも真剣モードな二人を見て、安易に部屋を抜け出すことができない。
二人きりにさせるタイミングを完全に失い、あっという間に夜が来てしまった。
つくづく役立たずな自分に、あと何回幻滅すればいいのだろう。
「ナオちゃん、施術も終わったし、温泉でも入りに行こうよ」
「そうだね、ご飯の前に行ってこよっか」
「いいよな二人で。男一人で入るの寂しいんだけど」
じゃあ入来ちゃんと二人で混浴して来れば? なんて冗談を本気で言いそうになったから、私の思考回路も相当狂ってきたと思う。
大浴場はゆったりとした空間が広がっていて、お湯に浸かると全ての負の感情を溶かしてくれるようだった。
「あぁー、気持ち良いなぁ」
「ナオちゃん、私のお父さんみたいな声出すね」
「お湯が気持ち良すぎてね。思わず心の声が漏れちゃったわ」
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