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こんなに広い大浴場なのに、お湯に浸かっているのは私と入来ちゃんの二人だけ。
窓ガラスに広がっている熱海の大海を見ていたら、急に入来ちゃんに謝りたくなった。
花火大会の時も、今日だって碌に気が利かないし、邪魔ばっかりしてるみたいだったから。
その懺悔の気持ちを、心から伝えたくなってしまった。
「入来ちゃん、何かごめんね」
「え? 何が?」
「いや、もっと戸部君と過ごしたいはずなのに……私、邪魔だよね」
凝り固まった体はお湯でほぐせても、心の凝りまでは軽くならないようだ。
浸かっているお湯に映る私の顔は、心底暗い表情をしている。
隣で肩まで浸かっている入来ちゃんの方を、簡単には見れなかった。
「やめてよ、そんなこと」
「だって花火大会の時だって、肝心な時に抜け出しちゃって迷惑かけたし。今日も上手く立ち回れなかったと思うし」
「もう、そんなの気にしてないよ。今日だって凄い楽しいよ? それにその話はもういいの」
「え、どうして?」
「振られたから、戸部君に」
「え!?」
思わぬカミングアウトに、つい飛び出てしまった甲高い声が、大浴場中に響いた。
入来ちゃんはその声に驚きながら、私の口を手で塞ぐ。
「男湯の方まで聞こえちゃうでしょ、静かにして」
「す、すびばぜん」
口を押さえられたまま放った謝罪で、理解した入来ちゃんは手を離してくれた。
落ち着いた声で、事の真相を聞き出さなければならない。
それくらいは、私にも聞く義務があるばずだ。
「入来ちゃん、どうして?」
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