夏休みは合宿に

12/12
前へ
/177ページ
次へ
「それで、ナオちゃんは戸部君のことをどう思ってるの?」 「戸部君を? それは……」  前にホームセンターで買い物をした時に、戸部君が花火大会に誘ってくれた。  でもその時は深く考えずに、チームで行くことを提案した。入来ちゃんのために。  私に本気で気があるなんて思わなかったし、何よりユウキのことで頭がいっぱいだったから。  それが、まさか真剣に誘っていたなんて。  頭の中が、上手く整理できない。   「ナオちゃん、まだユウキ君が諦められないんでしょ」 「へ? いや、別に」  戸部君をどう思っているか考えている途中で、虚を突くような第二の質問が飛んでくる。  二つのアンサーを抱えた私は、余計に何を話していいかわからなくなった。 「やっぱり、図星なんだ。まあそれぐらい想い入れの強い人なんだよ。すぐには立ち直れないよね」 「入来ちゃん……」  表情だけで理解してくれた入来ちゃんを見ていると、とても入学式におどおどしていた人とは思えない。  内面はしっかり芯のある、頼りになる女の子だった。   「ナオちゃんがリフレクソロジーを志した理由は、まだ死んだわけではないでしょ? ユウキ君に彼女がいても、リフレクソロジストとして向き合えば良いじゃない」 「そうだよね。リフレクソロジストを目指した気持ちは、こんなに脆くないはず」 「そう。でもその生活の中で、また良いなって思う人がナオちゃんに現れたら、私は応援するよ。それが戸部君だったら尚更ね!」 「入来ちゃん、本当にありがとう。なんだかスーッとしたよ。戸部君をどう思っているかはまだわからないけど、とにかくリフレクソロジーに全力を注がなきゃね」  長風呂を終えた私たちは、噂の戸部君にかなり叱られた。  怒っている様子を二人でバカにしながら、食事をとって眠りにつく。  入来ちゃんの言葉と行動力に、大きく影響を受けた合宿となった。  傷ついて、癒されて。  生活の中で、心に傷を負った人を、癒せる物事はいっぱいある。  ご飯だったり、温泉だったり、友達だったり。  その中の一つに、リフレクソロジーというリラクセーションもある。  温かみを伝える方法の一つを、懸命に学べていることに喜びを感じよう。  短くて濃厚な夏休みが、また一層と、私を大人にした。
/177ページ

最初のコメントを投稿しよう!

128人が本棚に入れています
本棚に追加