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クリスタル
夏の暑さが残る秋の始まりは、毎日の服装も気温によって変わってくる。
日によっては肌寒い時間帯もあって、衣替えするのも悩ましい時期。
セラピスト養成学校に通ってから、私は冷え性だということを知った。
放課後の自主練で足を貸す時に、チームの二人からよく指摘されるから。
その多くは戸部君からされるけど、毎回その温かい手で包んでくれる。
戸部君の施術で足がポカポカになっていくと、厚着してきたことを後悔する日々。
今日も、自主練で私が足を貸す番だっていうのに、性懲りもなく一枚余計に羽織って来てしまった。
朝、何も考えずに家を出た自分を思いっきり罵倒したい。
「はい、それではテキストを開いてください」
いまいち気乗りしない中での授業は、テキストの文字をひたすら追っていく作業になる。
周囲に合わせる形でテキストを開くと、ページ一杯に文字が書かれていた。
先生が文章を読み上げてくれるけど、完全に右から左へ流れていく。
頭に残らない状態で、ボーっと聞いているふりをしていると、隣の戸部君が声を漏らした。
「へぇー、面白いな」
そう言うと、一文を読み終えた先生が、嬉しそうに戸部君に話を振った。
私の横で繰り広げられているやり取りに、否が応でも興味を示さなければならない。
「戸部君、どのあたりが面白いと感じましたか?」
「だって、いつも触っていた足裏のコリコリしたものが、まさか”クリスタル”っていう名前だったなんて、知らなかったですよ!」
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