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「岸井さん、びっくりしました。すいません、すぐに気がつかなくて」
「いえ、こちらこそ急に呼び止めてごめんね。人混みの中にナオさんを見つけたから、つい話しかけちゃった」
岸井さんは、紛れもないユウキの彼女。
ここ最近は上手く切り替えられていたのに、彼女の顔を見ると嫌でも現実に引き戻される。
私が想いを伝える前に、ユウキに彼女ができてしまったという、認めたくないこの現実に。
「ナオさん、何か楽しいことあったの? 嬉しそうな顔で歩いていたから」
「あ……そうですか? 特に何もないですけど、今日は晴れているからでしょうかね」
学校で興味深いことを習ったからなんて、現役大学生の前では強く言えなかった。
天気が良いことを理由に、苦し紛れの返答をする。
もちろん私は、晴れの日は必ず笑顔になる人というわけではない。
「岸井さんも家がこっちの方向って聞きましたけど、どのあたりに住んでいるんですか?」
ユウキがいない今日も、駅からマンションの方に向かって歩き始める。
最寄り駅が一緒なら、どこかで会っていてもおかしくないはずだから、具体的にどこに住んでいるのか気になった。
「私はユウキのマンションの、もっと向こうのアパートに一人暮らししているわ。ちょうど一昨年に地元から引っ越してきたの。大学進学をきっかけにね」
岸井さんは、この街が地元ではなかった。
だから全く知らない顔だったのか。
区内にこんな綺麗な人がいたら、中学校の時とかに噂になっているはずだし。
若干の疑問が、あっさりと解決された。
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