128人が本棚に入れています
本棚に追加
「ナオさん、足のセラピストを目指しているそうね」
急に話題を変えて話を続けたので、即答できずにひるんでしまった。
リフレクソロジストを目指していることは、別に隠していないことなのに、岸井さんに聞かれると気持ち良く答えられない。
「はい、そうですけど……」
「それって、ユウキのため?」
気持ち良く答えられない理由、それはそうやって勘ぐられるのが怖いから。
ユウキのためにリフレクソロジストを志したなんて、彼女の目の前では言えない。
でも、岸井さんも薄々気づいているはずだ。
リフレクソロジストを志す理由に、ユウキがあるということを。
身近にユウキという存在がいなければ、リフレクソロジストになろうとは考えつかないだろうし。
私は岸井さんへの答えをゆっくり考えた後、正直に話すことにした。
「……まあ、そうでしたね。でも、ユウキには岸井さんがいますし、私は必要ないと思います。今は、素直にお疲れを抱える全ての人の役に立ちたいです」
そう告げると、岸井さんは心安らいだような表情に変わって、ひと呼吸置いた。
私は、これでいいんだと自分を無理に納得させたけど、とてもやり切れない気持ちが残っている。
悔しさと苦しさが入り混じる濁った思いを、余裕の顔つきという表面で覆う。
そんな私の顔を見ながら、話す言葉を見つけた岸井さんは、明るくなった声色でさらに答えた。
「良かった。ナオさんの大切な人を、私が取っちゃったみたいだったから。でも、もう安心した。ナオさんを必要としている人は、きっと沢山いるものね」
最初のコメントを投稿しよう!