クリスタル

7/11
前へ
/177ページ
次へ
 家に帰り、熱めのシャワーを浴びる。  頭を洗いながら目を瞑ると、早速さっきまで岸井さんと歩いていた情景を思い出した。  こんなにユウキのことを、考えたくなくなるなんて。  ユウキのことを考えると、必ず岸井さんの存在が頭を過ぎるようになった。  入来ちゃんから言われた通り、リフレクソロジストとしてだったら、まだユウキと向き合えると思っていたのに。  ユウキたちにとっては、それさえも大きなお世話なのかもしれない。  『好き』という感情が、霧の中に隠れていって、見えなくなった……。  ベッドに入っても、岸井さんとの会話が頭から離れることはなく、入眠するまでかなり時間がかかった。 「おはよう、ナオちゃん」    重たい瞼のままで今日も学校に着くと、相変わらず一番乗りの戸部君が挨拶をしてくれる。  私は寝不足を悟られないように、明るい声を意識して返事をする。 「戸部君おはよう。今日も早いね」 「まあね、昨日習った反射区のおさらいがしたくてさ」  純粋にリフレクソロジーを楽しんでいる戸部君を見ていると、何だか心が洗われるようだ。  本来、大学進学せずにこの養成学校に通い始めたのは、ユウキのため。  まさか半年で、こんなに複雑な関係になるとは思わなかった。  でも、ユウキに彼女ができてしまったのは事実。  ブレブレな気持ちのまま、中途半端に取り組んでいる自分が滑稽に思える。  目の前で真剣に取り組んでいる、戸部君に見せる顔がない。
/177ページ

最初のコメントを投稿しよう!

128人が本棚に入れています
本棚に追加