プロローグ

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プロローグ

「バカじゃねぇの?」  ユウキがマンションのエントランスでそう言った。 「バカじゃないよ」  彼の罵声にもめげずに反論する。 「そう、ナオがバカじゃないことは俺も知ってるんだ。だからこそもう一度言う、バカじゃないか?」 「だから、バカじゃないって。もう決めたことなの」  静かなエントランス、ちょうどエレベーターの前で、私たちは終わりの見えない押し問答を続けていた。 「いいかナオ、お前は学年トップの成績を誇る優秀な学力の持ち主なんだよ。それが何だ、大学進学せずに養成学校に行くって? そんなの認められるわけないだろ」 「ユウキに決める権利ないでしょ?」 「そうだけど、ナオの親だって心配するだろうし」 「もう許可は取った」 「はぁ!?」  静かな空間にユウキの声が響いたと同時に、エレベーターが一階まで下がってきた。  話を一旦中断させ、順番に乗り込む。  ユウキと私は中学からの付き合いで、同じマンション内に住んでいる。  ユウキが305号室で、私は602号室。 「じゃあな、願書締め切りまで時間あるんだから、もう少し考えろよ」  三階に着くと、そんな捨て台詞を吐きながらゆっくり降りて行った。  車イスに乗りながら。 ーーそう。  ユウキは二年前、高校一年生の夏に、交通事故に遭った。  幸いにも死に至ることはなかったけど、脊髄を損傷。  下半身不随となり、以後車イス生活を余儀なくされた。
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