PROLOGUE

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アムダは丸い空に浮かぶ太陽を眺めていた。 アンの元に危険が迫っている、という確信めいた想像が、アムダの脳裏にこびりついて離れなかった。 今すぐ助けに行きたいが、穴を出ることは叶わない。 自分の置かれた状況。不甲斐なさに腹が立つ。 自分に力があれば。沸き立つ感情の波が、ただその一つに帰結する。 無力感からの解放を望むように。 アムダは太陽に手を伸ばした。 「・・・なんだ?」 アムダは最初、太陽が落ちてきたように錯覚した。 丸い太陽と重なるようにして、一直線に穴底に落下してきたモノ。 それは、一つの果実であった。 「・・・・・・」 伸ばした手にすっぽりと収まった果実を、まじまじと眺めるアムダ。 その果実は、時折アンが落としてくれた果物に似ていた。 アンはその果物のことを「リンゴ」と呼んでいた。 アンが落としてくれた果物は赤色であったが、今回の果実は「玄」の色といったところか。深みのある黒色であった。 一体誰が落としたというのか。 無論アンでは無かろうし、その他の人間が捨てたのか? いや、捨てる者の姿は勿論、声や音も一切しなかった。 もとより、今日はやけに地上が静かだ。 まるで誰も居ないかのようである。 それに、果実は太陽と重なるように落ちてきた。 まるで天から落とされたように。 アムダは妙な胸騒ぎを覚えた。 不安と期待をごちゃ混ぜにしたような感情が、アムダの全身を駆け巡った。 気づくとアムダは、果実を口にしていた。 「!!!!!!」 瞬間。アムダの全身は初めての感覚に包まれた。 限りなく研ぎ澄まされた五感。 今まで視えなかったものが、聴こえなかったものが、手に取るように感じ取れる。 今の自分には、圧倒的な力がある。 確信めいた考えが、胸の底から湧き上がってくる。 アムダの全身を包んだモノの正体は、全能感であった。 アムダは何の疑いもなく、地上に向けて手を伸ばした。 すると、「世界」がアムダに従うように、穴底から地上に「梯子」が架けられた。 それが当然と認識している自分に驚きながら、アムダは梯子に足をかけた。 初めての地上。 地上の者達の世間話や、アンの話の中でしか知らないはずの街を、アムダは迷いのない足取りで駆けた。
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