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どのくらいの間そうしていたか。
アムダはアンを抱いたまま、静かに目を閉じていた。
その間、周りを囲む者たちは微動だにしなかった。
それは、二人の子が織りなす光景が、あまりに俗世離れしていたからだ。
見知らぬ少年の腕の中で、安らかに眠る少女。
少年はひどく醜い姿であったが、この時だけは神秘的に映った。
まるで「世界」がそこだけ切り抜かれたような光景に、多くの者は呼吸することすら忘れていた。
アムダは最後にアンを抱きしめると、ゆっくりと寝かせた。
「終わりにしよう」
その声に、周りを囲む者は思い出したように呼吸を再開した。
今のアムダの感情は、自分でも驚くほどに凪いでいた。
自分が歴史に終止符を打つ。使命感にも似た想いに突き動かされ、アムダは力を行使した。
アムダは自分の所為でアンは死んだと思っていた。
自分の存在を知ってしまったから、口を封じる為に殺されたのだと。
それは勘違いであったが、人類の勝手な都合でアンの命が奪われたことについては合っていた。
「皆の者。何をしておる!」
「彼の子を捕らえよ!」
我に返った『クモリ』と『ヒル』の当主は、怒号のような指示を飛ばした。
が、指示の実現はおろか、返事すらなかった。
アムダの力は、文字通り次元が違った。
一度の瞬きを許すか許さないかといった、刹那の時間。
二人の少年少女を囲むようにして、死体の山は築かれた。
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