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「今のは、歌声?」
「綺麗な声色だったな」
「天使の歌声のようでした」
李空、セイ、マテナの3人は、揃って恍惚の表情を浮かべていた。
大地の回転に伴い、肆ノ国を旅立った李空達。
その道中。彼らは共通の「音」を聞いた。
それは、伍ノ国から肆ノ国へと向かう途中に聞いた「声」とは全く逆のモノ。
あちらの声を「怨嗟の声」と表現するなら、マテナが言うように、こちらの音は「天使の歌声」という表現がぴったりであった。
「・・っと。これは、変だな」
いつのまにやらその音は聞こえなくなり、李空はようやく異変に気づいた。
セイとマテナが頷く。どうやら二人も言葉の意味を理解している様子だ。
大地の回転が始まる前。李空たちが居たのは肆ノ国の闘技場であった。
それは、舞台から空も望める地上にあり、大地の回転に抗ったとて、回転後の立ち位置も地上であるのが道理だ。
が、今李空たちが居る場所は、必ず地上だという確信が持てなかった。
というのも、ここには「空」がないのだ。
かといって建物の中というわけでもなさそうだ。地面に整備された様子はなく、石ころやらが剥き出しの状態になっている。
しかし、前述通り空は見えない。まるで分厚い雨雲が覆っているよう。いや、地下に居るかのようである。
「あ!見覚えある人たち!」
と、李空らに呼びかける声が。
空は見えず太陽光は届かないが、等間隔に街灯が設置されているため、相手の顔は認識できる。
その顔は、零ノ国案内人壱ノ国代表担当コーヤを始めとした、各国担当の案内人達とよく似たものであった。
「えーと、君は?」
「トーヤ!案内人!」
トーヤと名乗る少年は、元気に声を張り上げた。背中には大きなリュックを背負っている。
言動からだろうか、他の案内人と比べて少し幼く見えた。
どうやら、顔は同じでも、案内人たちの性格はバラバラのようだ。
今までの経験から、彼が参ノ国代表担当の案内人。そしてここが参ノ国だと推測した李空は、気になる疑問点を一つずつぶつけることにした。
「ここ、参ノ国だよね。一体どういう造りになってるの?」
「さあ。聞いたけど忘れた!」
「えーと、参ノ国代表は一緒じゃないの?」
「はぐれた!」
「・・石版について、参ノ国代表の誰かから何か聞いてる?」
「知らない!」
トーヤは全ての質問に自信満々に答えた。
回答を聞くたび、李空の目は段々と遠くなっていった。
それは情報が何一つ得られなかったこともあるが、トーヤとのやりとりに真夏との既視感を抱き、思い出したからでもあった。
胸中を掠めた寂しさの風を振り払うように頭を振り、李空は携帯電話を取り出した。とりあえずは平吉達に連絡を取るべきと判断したからだ。
が、一向に繋がる気配がない。
何かあったのか、と李空が首を捻っていると、トーヤが「あ!」と声をあげた。
「そうだ!参ノ国は携帯使えないよ!」
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