THIRD

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「ちっ。使いもんにならんな」 平吉は渋面で携帯電話をポケットにしまった。 「こっちもダメでありんす」 その隣で、架純が首を振っている。 片手には携帯電話が握られており、平吉と同様、電話が繋がらなかったことが窺えた。 さて、平吉と架純の二人であるが、李空らと同じく参ノ国に入国していた。 が、大陸回転時の初期位置が違ったため、李空らとは別の地点に到着していた。 「とりあえず情報収集やな」 「そうやね」 二人は一方に向かって歩き出した。足取りに迷いがないのは、そちらの方向に街並みが見えたからだ。李空らの位置からは見えなかった街だ。 平吉らの初期位置と街はさほど離れておらず、歩いて数分で到着した。比較的発展した街は明るく、建物は高い。 中には、何故か当たり前のように頭上に存在する天井についてしまいそうな建物もあった。 「ん?これはこれは、優勝国の年長組さんやんなあ」 と、二人の元に一人の男が近づいてきた。 口元にはいやらしい笑みが張り付いている。 「お前は・・誰やっけ?」 「あちきの対戦相手でありんすよ。名前は・・なんやっけ?」 「・・・ルーマだ」 その男。参ノ国代表ロス・ファ・ルーマは、平吉と架純のあんまりな対応に嘆息した。 それから平吉と架純は参ノ国の説明を受けた。 なんでも参ノ国は六つの層に分かれており、それぞれに「ド」から「ラ」の地区名がついているそうだ。 現在地はその内の「ファ」に当たる地区であり、地上一階に相当するらしい。 地下や二階以上に当たる位置にも同じような空間があり、「ド」から「ミ」、「ソ」と「ラ」の地区名がそれぞれ割り当てられているそうだ。どの地区にも、ここと同様に人が生活しているとのことだった。 まるで巨大な建物がそのまま国になったみたいだな、と平吉と架純は共通した感想を抱いた。 「なるほどな、国の構造はわかったわ。電話が繋がらんのもこの特殊な環境のせいっちゅうわけやな」 「天井があるのも納得でありんす」 「そうだ。話が早くて助かるやんなあ」 狐目を細めて頷くルーマを横目に、平吉は思考する。 優先すべきは李空らと合流することだが、携帯電話が使えないとなると方法は限られてくる。 聞き込みをするのも手だが、より確実な方法があることに気づき、平吉は開口した。 「石版の位置はわかるか?」 「・・なるほど。くうちゃん達も遅かれ早かれ石版を目指すという結論に達するだろう、というわけでありんすね」 「そういうわけや」 架純の言葉に平吉が首肯する。 目的地が定まっていない状態で逸れれば合流は困難だが、今回は「石版」という共通の目的がある。 お互いにそこを目指せば合流できる、というわけだ。 「話は聞いてるやんなあ。ここに居たのも案内をするためやんなあ」 六国同盟『サイコロ』経由で調査班の動向をある程度把握していたルーマは、大地の回転が起きたことで調査班が参ノ国に入国したのではないかと推察し、こうして待ち伏せをしていたのだった。 入国したのならば「ファ」の何処かに居るだろう、という考えの元だ。 「石版はファ。正確にはミとファの中間にあるやんなあ。けど、その場所に辿り着くには、遠回りをする必要があるやんなあ」 「どういう意味や?」 平吉が問うと、ルーマは説明を始めた。 「まず、石版の在り処。それはあの屋敷の地下やんなあ」 ルーマが指差す方向には、大きな屋敷があった。 背の高い建物は他にもあるが、その屋敷は特別大きい。屋根は天井にすっかりついている。いや、埋まっているという表現の方が的確かもしれない。屋根は途中部分までしか確認できなかった。 「あの屋敷は『三重塔』っていうやんなあ」 ルーマの話では、その屋敷は各地区の同じ地点に建てられているとのことだった。 「ファ」を含む地上に3つ、それから地下にも3つあるため、「三重塔」と呼ばれているそうだ。 計6つの屋敷は内部で繋がっており、入口は最上階と最下階の2つしかない。 そのため、石版があるという場所に行くには、どちらかに一度足を運ぶ必要があるというのだ。 「なるほどなあ。ほんで、移動はどうするんや」 摩訶不思議な話であるが、それくらいのことは慣れっこだと、平吉はすんなり話を呑み込んだ。 「ああ、それはなあ───」 ルーマは呟き、一方を指差した。
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