足あと村

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足あと村

 とある世界の片隅に、「足あと村」という村があった。そこの住民は「足あと族」と呼ばれた。  足あと族は普通の人間とは違う体をしていた。肌が湿っていて、緑色をしている。道を歩けば、緑色の足あとがくっきり残った。肌が湿っているから靴を履いてもすぐだめになるので、足あと族はいつも裸足だ。足あと村には緑色の足あとが、いたるところに見られた。  もう一つ、足あと族には大きな特徴がある。こうもりのような翼が背中から生えているのだ。この翼は皆赤ん坊の時から生えているが、自然に飛ぶようにはなれない。飛ぼうと意識するだけでは翼は動かない。「飛ばないと死亡する」という状況に置かれてはじめて、翼がひとりでに動きだす。  そのため足あと族は、成人の儀式の際に、雲より高い塔から飛び降りなければならなかった。翼を動かさないと当然死んでしまう。そうなって初めて飛ぶことができるのだ。翼を使えるようになると大人と認められる。「足あと村」は高い塀に囲まれていて、門がない。成人になり、翼を使って門を飛び越えて初めて村の外に出ることができるのだ。  まれに、塔から飛び降りても翼が動かず、地面に叩きつけられて死ぬ者もいた。  翼が動かなかった者を助ける者はいない。そんな者がいたら、「飛ばないと死亡する」という状況にならないからだ。翼が動かなかった者は、地面に叩きつけられてばらばらになった肉塊を鳥の餌として供給し、その生涯を終えるしかなかった。
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