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俺の想いと3代目の想い
随分と気を失っていたようだ。太陽が真上にある。
『レオ!』ニコが走ってくる。体に傷などはない。
「クア…」
『…私に寿命を…』苦しそうな顔で俯(うつむ)く。またそんな顔を…
「君を失いたくなかった。」
『これも呪なの?あなたまで巻き込んで、どうしてカムイを刺さない?私を消さなければ、「黒いもの」は消えないのよ?』
「俺が望んだ。君が…好きなんだ。」
『!!』
「クア。」近づこうとすると逃げる。
『あなたのその想いは、呪に言わされているだけ、思わされているだけ…なのに寿命まで。』
言わされているだけ?俺の心は俺のものだ。何を言っている?
初めて流す彼女の涙に、押し黙ってしまう。
『話を…聞いてくれる?』
「ああ。」
洞窟の岩の1つに腰掛ける。離れようとする、彼女の細い腰を掴んで引き寄せた。何度か拒(こば)んだが、なかなか離さない俺の顔を見て、何ともいえない顔をして…諦めて語り出す。
俺の記憶にはない3代目レオの話だった。
早くから彼女に出会い、「黒いもの」の清めを見て困惑した。俺のように、彼女を守ろうとしていた。3代目も彼女に想いを寄せる。
『「厄神」の私に想いを寄せるなんて…彼を遠ざけようと。』
向けてくれる彼の想いも、呪で巻き込んでいると思い、一旦村へ帰るように進言した。離れたら冷めるかもしれない…と辛そうに語る。
『村の皆を説得する。3カ月で戻る…そう言って』
だが、彼は2カ月で彼女の待つ森に戻ってきた。村の戦士たちを伴って…
高い丘から顔を歪ませて、彼女を見下ろす。
「厄神よ!よくも騙したな!俺の父や母まで!!覚悟するがいい!!」
後ろから若い娘が1人、彼に寄り添う。
『……あぁ…レオ。やっぱり呪だった…愛されるはずがない…どうして思った?…愛されるって…』
大粒の涙がポロポロと溢(こぼ)れていく。
3代目は右手を上げて。
「俺はお前の首を持って村へ帰る。残念だったな厄神!」
村の戦士たちが投げた、無数の竹槍が彼女を貫く。身動きができない彼女の…3代目は笑いながら首を切った。
この後、彼女の骨からカムイが作られるのを、霊体となった彼女は泣きながら見ていた。
首に手をあてて語った彼女の涙を、そっと手で拭う。
「言いたいことは理解した。辛い想いをしたんだ、そう考えるのも分かる。」
『女性は…彼の婚約者だった…あなたにもいるように』
そう言って俺の髪飾りを見た。
トワの男は5つになった時に、神託を受けて婚約者を与えられる。揃いの髪飾りで婚約が成立するが、「レオ」になった時点で、特別な約束をしない限り無効になる。帰らないかもしれないから…
「俺が「レオ」になったのは3つの時だ。婚約者は与えられていない。この髪飾りは母のものだ。」
「レオ」として親元を離れる幼い俺に、泣きながら母がくれたもの。
まだ泣く彼女の背を、落ち着かせるようにさすった。
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