ミト

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ミト

行ってしまった…ニコもアトも。人がまだ踏み入れていない、原始の森で1人たたずむ。そのまま2人で旅に出てしまえばいい。私に縛られず、自由にこの広く美しい世界を…私では、この星を守れなかった…「クア」。今は大神がいる。 「彼」も自由になっていいはずだ。「レオ」としてではなく、この星の人間として。 それに「厄神」の私がいたら、また「黒いもの」が発生してしまう。クアとの約束を守るには… 『姉上…』 『…ミト?』 『やっと見つけた!こちらに来ませんか?』 『…うん。ありがとう』 クアの姿を掻き消すように霧が出てきた。 「ニコ、ミトとは誰だ?」 3日休まず走ったが、さすがに疲れが出始め、ニコの蔦(つた)に運ばれながら、深夜に耳にした彼女の「声」。 『クア様の弟君だよ。天界で唯一の味方の神様。』 「弟…」 厄神に弟…初耳だ。それもそうか…天界の話を人間が知るすべがない。 『クア様に嫌がらせをしてきた女神を…その…ミト様がなぐちゃって。』 「殴った?女神を?」 『ニコはスッキリしたけど…罰は受けなきゃで…大きなドラゴンに変えられて落とされてた。』 言い訳など通用しないのか、天界という所は。厄介(やっかい)だな。 「クアの「声」が聞こえないのは、ミトの仕業か?」 『ミト様の神域に入ったんじゃないかな。ミト様って結構力の強い神様だから。すっごい人間嫌いだし。許可なく神域に入ったら、とんでもない罰を受けるよ。』 ぶるぶると震え出した。覚えがありそうだ。 「なら、クアは安全だな。」少し安心する。 『そだね。ある意味。』 「全て終わったら、女神の呪についても教えて欲しい。」 『いいよ。さっさと終わらせよう。』 『姉上…ずっとここに居ても…』 もう6回目の説得だったが…結局同じ言葉しか出てこなかった。人間界に落とされて約1000年。言葉すら出てこなくなるとは… 『「黒いもの」が…ここにも来るもの…ミトも神域まで穢れちゃう…』 『姉上…』 そう言って下を向く。泣きそうになった時の姉上のクセ。 『ミト…お別れに…来たの』続けようとした言葉を先に塞がれた。天界にいた時からの姉上の「望み」なのは知っている。 ゴゴゴゴ 山のようになった体を動かして、小さな姉上に向き直る。 『姉上?その魂は?…何か違う。』 『アトの…寿命をもらった。』 『アト?』 『今世の…レオ。』 ガアァァァ!! 『レオ?!まだ姉上を狙うのか!浅ましい人間!塵芥共(ちりあくたども)!!』 姉上が浄化しているものの正体も知らないで、よくもぬけぬけと! 『ミト。』 私の爪に、ピタリと寄り添った。この神域を出られさえすれば、残らず滅ぼしてやったものを! フーフーフー… 冷静になろう姉上のために…。 『今回は、長めに居てくれるのでしょう?』 『うん…1ヶ月ぐらいは。』 ならば…巨体を震わせて力を使う。 『懐かしい…天界にいた時の姿…だね。』 「姉上に似たこの姿は、私の自慢だよ。ねぇお話を聞かせて?」 『…うん…』
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