1人が本棚に入れています
本棚に追加
Act 1
耳が痛くて目が覚めた。
音のない世界。
今何時?
慌てて時計を覗き込むと、アラームがセットされていない。六時、やばいと思いながら、その横にあるカレンダー。土曜日じゃん。
だけど、何かがおかしい。
音が何かに吸い込まれるようで、また耳が痛い。
寒いし目が覚めた。
トイレに行こうとして、ふと見た窓。
カーテンの隙間を光が差し込んでいるような気がした。
六時だとまだこの辺は暗い。七時前でやっと明るくなるのに。
布団から起き出し、枕元の赤い半纏を着た。
カーテンに手をかけた。
「噓―!」
外は雪景色。いやそんなもんじゃない、ここは二階、何この雪の量?
思わずベランダに出た、狭いベランダだが洗濯機を置くスペースはここで、その洗濯機には山のように雪が積もっていた。
そして下を覗いた。
一階、埋まってる。
まさかと思い、そのまま反対側へ、狭いワンルームアパートは会社の寮、たかが走ったところで数歩だが。玄関ドアを開けた。
「噓―!」
自分でも恥ずかしいくらい大きな声が出た。
やばい、まずい、とにかくトイレ。
天気予報は豪雪地帯ではないものの、天気予報毎日うるさいほど注意を呼び掛けていた。
すぐに支度をした。
田舎は東北で雪には強いと自負している、でもこんなのは初めてだ。
ブーツなんてかっこいい格好してらんない。長靴を出し、防寒用のスキーウェアを何年かぶりで出した。
こんな時に役に立つなんて思ってもみなかった。
そしてこんなことになるなんて思ってもみなかった。
階段は、外階段で、そりゃうずたかく雪が積もり歩けるようなものではなかった。
それを足でけり落しながら下の階へ。
下には、付き合って間もない彼の部屋。
きっと驚く。
驚くよね…。
真っ暗な一階は、雪の壁に覆われ、吹き溜まりのように、玄関先の廊下にはうっすらと雪が積もっているだけだった。
だったのだ。
でもその光景を見て私はUタウン。
寒い思いをしてまでここまで来たのに。
玄関に入ると扉を思いきり引っ張った。
音は又雪に吸い込まれ、どこの部屋の音かもわからない。
彼の部屋の前、しっかりと残った二つの足跡。そして女ものの赤い傘がガス管に引っかかっていた。
二股。
やられた。
案外、軽く済みそう。
付き合い浅いからな。
いい男だし。
私にはもったいないし。
はは、あはは。
涙は勝手にあふれ、玄関の色を変えた。
エーン、私の何が悪いのよー。
寝よ。寝て忘れよう。
最初のコメントを投稿しよう!