謎の湿気に悩まされるMの話

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 いつからだろうか、守康(もりやす)は湿気に悩まされている。今はもう十一月の終わりだ。外は乾いた風が吹き、猫もこたつで丸くなり始める時期なのに、生温かくじめっとした空気が彼から引っ付いて離れない。夏に汗が乾かないで夜中に気持ち悪くなって起きるのも、音がやたらうるさい割に涼しい風をちっとも送って来ない、黄色く変色した古いエアコンのせいだと思っていた。いや、実際そうだったのかもしれないが、その夏が過ぎ、台風がいくつも通り過ぎ、冬に片足を突っ込んでも澄んだ空気を吸う事さえままならない。もう気のせいにも季節のせいにも出来ない。きっと何か別の原因があるのだろう。と言っても思い当たる節が無いから困ったものだ。例えば、自分が住んでるアパートの二階の一室のみがむっとしているのであれば、大家に相談すれば良いが、四六時中彼の周りのみジメジメしている。ジメジメしているが別に白く(もや)がかかる程ではない。だがしゃれた喫茶店の窓際のカウンター席で勉強していたりすると、彼の前だけガラスが曇ったりする。腕が乗っかっていたノートもすぐに水気を含んでよれてしまい、黒鉛の乗りも悪くなる。まるで新陳代謝の良すぎる人間だ。守康は流石におかしくなって自嘲気味に一人で笑ってしまったが、不快感は消えない。
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