終電間近

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終電間近

 駅の階段を駆け上がる。ホームには電車が待っていた。 「うわ! 急がなきゃ!」 俺は電車に向かって走った。 「カイソウデンシャガハッシャシマス。アブナイデスカラ~……」 アナウンスが響くなか電車の扉が閉まる直前、俺は慌てて飛び乗った。コンプレッサーの排気音とともに扉が閉まる。 はずむ息を整えながら外を見ると、馬鹿だなという顔をされた。ホームにいる人達の視線が痛い。 そして電車は止まることなく、車庫に吸い込まれていく…… 「なに一般人に見られているんだよ、変に思われただろうが」 車庫内で、整備士長にどやされる。 「すいません、ちょっと仕事が長引いちゃって」 謝っていると、後ろから小バカにしたように話しかけられる。 「また残業押しつけられたの? バッカじゃない、そんなんだから辞めればいいって何度も言ってるじゃない」 「うるさいな、大人には色々あるんだよ。お前も社会に出ればわかるって」 「はん、アタシはアンタみたいにならないわよ。コッチで稼いでいくんだから」 「小娘が生意気言うな!!」 30近いオレに対して、ひと回り以上年下の生徒のくせに生意気な。  オレ達のやり取りをよそに、電車はどんどん武装されていき、オレ達用の装備も積み込まれる。 「2人ともそろそろいいか、今回の行き先と任務を伝えるぞ」 いつの間にか電車に乗り込んでいた隊長の言葉に、オレ達は姿勢を正し敬礼をする。 隊長といっても軍服姿ではなく、官公庁務めだろうと言いたくなるほどのビジネススーツ姿だ。訊いたことはないがたぶん30半ばくらいだろう。 「コミュニケーションはとれているようだな。君たちのコンビは作戦成功率が高いから、今回も頼むぞ」 「「はい」」 内心、とれてねーよ、と叫んだ。おそらく向こうもそうだろう。  整備士が何人かがかわるがわる整備士長に報告すると、全員車庫に移動する。 「隊長、換装完了しました」 「ご苦労さまです。整備士長も降車してください」 「了解。2人とも、せっかく整備したんだから無傷で帰ってこいよ」 「ご期待にそえるよう努力します」 オレがそう応えると、敬礼して整備士長は降りていった。それを見送った隊長は、あらためてこちらを向き、作戦の説明をしはじめる。 「それじゃあらためて説明する。今回の階層(カイソウ)は、AD001X36Y127Z500T1235、通称ダストボックスの世界だ。作戦目的は、こちらの世界に干渉するモンスター退治というよくある事(シンプルケース)だ」 残業疲れのオレは、簡単な仕事と知ってホッとした。
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