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ロードのない世界で
「ねぇ、ようちゃんはさ、過去に戻ってやり直したいって考えたことある?」
ソファに並んでテレビをぼーっと見ていた時に、彼女から突然質問が飛んできた。
「え、なんで?」
反射的に答えると、彼女ーみおーは脚をジタバタさせながら、ふふふと笑った。
「いやぁ、いい設定思いついたのよ。もし今までの人生が好きなところでセーブできてね、振り返った時に足跡で記されてるの!それで戻りたい足あとのところに立ったらロード!その時に戻れるみたいな世界だったらいつ戻るかなーって。」
「相変わらずファンタジー思考だね。」
みおはいつも色々なことを考えている。
テレビを見ている時も電車に乗っている時も、彼女の頭はずっとぐるぐると回転し続けているのだろう。
今も一緒にぼーっとバラエティ番組を見ている気でいたけど、そんなこと考えていたとは。
「そう言うみおは、いつに戻りたいの?」
必殺質問返しをしてみた。
みおは少し目を丸くしたが、すぐにうーんと考え始めた。
「戻りたい部分はたくさんあるよ。いつも失敗したら失敗する前に戻りたい!って思うし、忘れ物したら家出る前に戻れーって思うし。」
その時のことを思い出したのか、みおは少し俯き加減で悲しそうな顔をしている。
「でもね、足あと設定できるとしたら絶対楽しかったことの後にすると思うんだよね!だってみんな、"あー楽しかった、セーブしよ。"みたいな感じでするでしょ?だからその足跡に戻ってもやり直せはしないよね。」
「あれ、何が言いたかった?みたいな顔してるけど、それ言いたいのこっちね。」
話の論点がずれまくっていたので、思わず口を挟んでしまった。
聞いてみたはいいものの、まだその足跡ロード設定を詰められていなかったのだろう。
みおは空を見つめて固まっていた。
あ、これ設定今つめてるわ。
「てかみおさ、セーブ自由系ゲームの時、数歩歩いてはセーブしてたじゃん。みおの考えてる設定がどういう基準でセーブできるか分からないけどさ、割と自由なんだったら足あとだらけになるよね。」
空を見つめていたみおの目がすごいスピードでこちらを向いた。おまけに口が開いている。
ここで畳みかけてみる。
「足あとだらけだったらそもそも戻りたい時期を見つけるの大変だし、そんなにこまめに戻れてしまったら人生楽しくなくなりそうじゃない?」
みおは一瞬ぐぬっとした顔をしたがすぐに目を見開いた。
「じゃあ、足あとロード3回までにする!」
謎の設定追加。もう少し乗っかってみよう。
「じゃあセーブも3回?戻れないならセーブしても仕方ないもんね。」
「あ、そっか。ようちゃん頭いいね!」
「ありがとう。でもさ、みおが言ってたことと被るけど、それこそセーブ3回だったら中々セーブしなくない?何か物事が大成功したあととかだよね。そこから10年セーブしてなくて何か失敗して時、やり直すまでにまた10年かかるよね。」
自分で言っといてなんだけど、この設定めっちゃ嫌だなと思う。
隣を見ると凄く残念な顔をしたみおがこちらを見ていた。
眉毛がハの字だ。
「設定詰め直しますお風呂に入ってきます。」
みおはため息と共に一息にそう言うと、こちらを向かずに風呂場に直行してしまった。
ちょっと言いすぎてしまったな。悪い癖だ。
この質問される前にセーブしときゃよかった。
「..ロード」
ぽんっとその場で両足をついてみる。
すると風呂場からバタバタと足音が聞こえてタオルを雑に巻いて濡れたままのみおがやってきた。
「トリートメント忘れた!」
今走ってきたところの床が足あとのように水溜まりができている。
「せめて足拭いてきてよ!」
「シャワー浴びてから思い出しちゃったのさ、ごめん!」
みおはトリートメントを取ると意味のない爪先立ちでまた風呂場へと向かって、止まった。
くるっとこっちに向いて少し戻ってくる。
どうした?と言いかけた時
「ロード!」
みおは足あとのようにできている水溜りの上で両足をぽんっと揃えた。
「..いや、そこでロードしてももう一回トリートメント取るだけじゃん!」
みおは楽しそうにへへへっと笑いながら風呂場へ消えていった。
その様子に思わずつられて笑いながら、彼女の足あとのような水滴を辿って拭いた。
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