■ベンチタイム ただいま発酵中

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 時雨は生まれて十九年間のうち、カレーを食べた記憶は一度しかない。  覚えているのも幼少のころの苦い思い出だけだ。  時雨はカレーを食べることが出来ない。  食べれば呼吸困難、下手をすると死に陥ることもある。  食物アレルギーというやつだ。  そのせいか時雨は自分を守るために、舌が鋭敏に、嗅覚も人並み以上に発達してしまったのだ。  なので、常人では嗅ぎ分けられないほどの些細な匂いでさえ、感じることが出来る。  時雨の食物アレルギーのせいで、その日以降、水野家の食卓にカレーが並ぶことはなかった。  どうしても食べたければ、外食してくればいいだけの話だ。 「なんか大通りの所に、新しいカレー屋が出来たんだよ」  食べれないからと言って、ひがむ気もないし、晴海も気にしない。 「ふーん、美味しかった?」 「辛くて美味かった」 「…………」  もう少しちゃんとした感想が欲しいものだが、とりあえず晴海は気に入ったようである。
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