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時雨は生まれて十九年間のうち、カレーを食べた記憶は一度しかない。
覚えているのも幼少のころの苦い思い出だけだ。
時雨はカレーを食べることが出来ない。
食べれば呼吸困難、下手をすると死に陥ることもある。
食物アレルギーというやつだ。
そのせいか時雨は自分を守るために、舌が鋭敏に、嗅覚も人並み以上に発達してしまったのだ。
なので、常人では嗅ぎ分けられないほどの些細な匂いでさえ、感じることが出来る。
時雨の食物アレルギーのせいで、その日以降、水野家の食卓にカレーが並ぶことはなかった。
どうしても食べたければ、外食してくればいいだけの話だ。
「なんか大通りの所に、新しいカレー屋が出来たんだよ」
食べれないからと言って、ひがむ気もないし、晴海も気にしない。
「ふーん、美味しかった?」
「辛くて美味かった」
「…………」
もう少しちゃんとした感想が欲しいものだが、とりあえず晴海は気に入ったようである。
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