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「……お願いします」
どん、とパンが山積みになったトレイを、レジ担当の時雨の前に差し出された。
最近になって常連客が増えた。
スマートなスーツを着こなして、目立つ左目の下の泣きボクロが印象的な二十代半ばの青年である。
ほぼ、同じ時間帯に現れることから会社の休憩時間なのだろうか。
初めて訪れた時は店にある商品を一通り買っていったことから只者ではないとは思っていた。
その日以降、訪れるたびに商品を根こそぎ買って行ってしまうため、ありがたいのだが、他の顧客のために焼き足さなくてはいけなくなり、にわかに明日喜屋は忙しくなっていた。
いったいどんな仕事をしているのだろうと、興味をもった時雨は、意を決して訊ねてみることにした。
「いつもありがとうございます。……あのアンパン、お好きなんですか?」
ひと通り買っていく客ではあったが、一つだけわかったことはあった。
大概一種類のパンを一個か二個ずつ買っていくのだが、アンパンだけは店に出ているだけ全てを買い占めて行ってしまうのだ。
アンパンは明日喜屋の看板商品だ。だから自信もあったし誇りもあった。
だから何気に嬉しい。
それにしてもほぼ毎日買いに来るにしても、アンパンばかり食べていたら飽きるのではないだろうか。
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