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それとも会社内で分け合っているのだろうか。
青年は少しとまどった顔をしながらも、明瞭な響きの声で、
「ええ、好きなんです。こちらのアンパンのほうが正直ずっと美味しいですね」
泣きボクロが印象的な青年は眼を細めて応じてくれた。
会話をしながらも商品を袋に詰め、支払いも完了させる。
まったくもってスキのない動き。
何が悲しくてこんなにもベテランにならなくてはいけないのだろうか。
「――もしかして、買い過ぎでしょうか?」
「え? いえいえ! いつもご贔屓にありがとうございます!」
「また、来ます」
にっこりとほほ笑み、最後まで好青年な人物に好感を持ちながら、時雨はふと、先ほどの言葉を思い出した。
「こちらのほうが美味しい」ということはどこかと比べての言葉だろう。
時雨が働く明日喜屋はビジネス街に面してあるにしても、裏路地の少々分かりづらい場所にある。
それだったら、大通りにある本店に行ったほうがずっと効率がいいというものだ。
それをわざわざ足を運んでくれるということは、こちらのアンパンの味を認めてくれたということだろうか――?
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